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なぜ靴卸業の老舗がモノづくりに挑んだのか? シューブランド「SOJI」に込めたデザインの力 ≪後編≫

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ビジネスとデザインの関わりを学ぶトークイベント「“besign”talk meeting」。7月4日に開催された第1回目のゲストは、宮城県仙台市に本社を置く靴卸業の老舗、株式会社ヒロセ代表取締役の菅井伸一氏。菅井氏は、今年4月にデザイン性かつ機能性に富むオリジナルシューブランド「SOJI(ソジ)」を発表。なぜ靴卸業の会社が「自社ブランド」を立ち上げたのか、なぜビジネスにデザインを取り入れたのか、どのように外部クリエイターを巻き込んでいったのか、その想いと挑戦に、株式会社それからデザイン代表の佐野が迫り、熱いトークが繰り広げられました。

前編はこちら

目先の売り上げを追いかけるのが正解か?

佐野
発売からまだ3ヶ月も満たないところではありますが、ビジネスの成果としてはどうですか?
菅井

3年かけて600足生産のプロジェクトです。SOJIは北海道の子牛の皮を使っていて、子牛から取れる皮の量は限られています。おかげさまで予想よりも売れているのですが、正直、売り上げは全社の1%にも満たない。

しかし、売上という結果ではなく、我々が自社ブランドをつくれる、セルフプロデュースをやれるというところを見せるんだという、エンジン的な役割と考えています。SOJIは“日本国内の良い素材を取り入れてつくる”ことをコンセプトにしています。今後は、100%手作りの折りたためる長靴とか、世界的にも有名な岡山のデニムを使ったものもやって見たい。そういうのって、めちゃめちゃ面白いと思うんです。

社員を巻き込む

佐野
僕はいろんな経営者とブランディングの仕事をさせてもらっていますが、こういう考え方を持っている経営者は日本にはまだ少ないと思います。結局、売れてなんぼ?という目の前にある現実的な話に終始して、先を見ることが難しくなるプロジェクトは多いです。菅井社長は、先行投資的なチャレンジをどう考えていますか?
菅井
そもそも、主役は私ではないと考えていて、プロジェクトに関わるメンバー全員が主役になれるよう、社員巻き込み型でやっています。ここまで大変なことをやって“物を生み出す”と、社員の“目利き力”が上がるはずなんですよ。物をつくる視点でメーカーさんと関われるようになるんですよね。この視点を持つと、本業である卸業でも仕事のスタンスが変わってきます。私たちがそういう姿勢に変わったことで決別したメーカーさんもいます。
菅井

SOJIはここまで希少性、デザイン性にこだわっていった結果、簡単には真似できない、コモディティ化しにくいモノになった。大量生産、大量販売の発想と離れてここまで踏み切ると、安くならないし、ブランド力が続きます。

逆に、良いものをつくっているメーカーがいれば、一緒にコラボしようという話もあり得ると思っています。良い素材があって良いプラットフォームがあれば、我々の地域性、希少性をどんどん突っ込んでいく。そういう意味でも、自社ブランドをつくるチャレンジに社員を巻き込んでいくことで好循環が生まれると思っています。

佐野
なるほど。外向けに発信しているものではあるけれども、社員の動機付け、意識づけとなるインナー的効果も重要視されているということですね。
菅井
はい。それがほとんどの理由ですね。
佐野
外部のデザイナーを入れて、自社ブランドを立ち上げ、グラフィックやWebサイトを作ったり、PR発信をしていくとなると、デザインにはそれなりの費用がかかると思いますが、そこはどう考えられていましたか?
菅井
デザインにかかる費用は当初はまったくわからなかったです。ただ、産学連携事業にして500万円の助成金が採択されていましたので、これを元手に言い値でいくしかないと思っていました。ただ誰に頼んだらいいのかもわからない。有名な広告代理店に頼むと桁違いの費用がかかるという話は噂で聞いていました。でも、実は広告代理店は、フリーランスのデザイナーへ仕事を流していることを知り、ならば直接フリーランスとやればいいんだと思ったんです。

デザインを感性で選ぶのは自分たちの方だった

佐野
デザイナーとのコミュニケーションの取り方で工夫したことはありますか?
菅井

SOJIをやって、“デザインの力が商品の力を上げるんだ”ということに気づきました。自分たちがどうのこうの言うよりも、デザイナーの個性が商品の魅力を加速させるんですよね。

僕ははじめ、デザイナーは感性の職業と思ってたんです。でも、それは違っていて、逆に感性で選ぶのはこちら側だったんだということに気づきました。僕らは感覚的に「このロゴは少し弱いかな」とか「カジュアルっぽいよね」と言ってしまいますけど、彼らの提案するデザインには理屈があって必然性があるんです。そこを咀嚼して理解する力がこちらにもないと、こちらの感性とデザイナーの理屈で毎回ぶつかります。

佐野
なるほど。そこをどう乗り越えているんですか?
菅井
徹底的にお互い話すことですね。こうしたらよかったのにという形で終わったことはないです。化粧箱に印字している文字の位置ひとつとっても、ものすごく細かく設計されています。僕らは、出来上がったものを見てから、後から気づくんです。そこに必然性があったことに。だからこそ、デザイナーの提案を信じることですよね。
佐野
コミュニケーションをものすごく大切にされていらっしゃるんですね。
菅井
本当にそうですね。完成間際にはデザイナーと昼夜問わずやりとりをしていましたし、スポーツにたとえるなら、観戦側じゃなくて競技そのものに私たちも参加しているような感覚でした。いいものを目指しているチームの一員でしたので、苦はなかったですね。

デザインは「対話」から生まれるものである

佐野

とても良いクリエイターチームと仕事をされていると思います。中にはクライアントのいいなりになってしまうデザイナーもいますから。デザインはあらかじめ用意された正解があるわけではないですよね。新しいデザイン、新しいプロダクトを世に問うていくことですから、思ったことをはっきりと言う、言い合える、それをやりきれるかが大事だと僕も思います。

とはいえ、一般的には、企業の経営者にとって、デザイナーとタッグを組んで仕事をするという経験はさほど多くないはずです。またそもそも経営者にはジェントルな方も多く、デザイナーを尊重しすぎて、あまり意見を言わない方もいらっしゃいます。菅井さんはどうでしたか?

菅井

少し前になりますが、2015年に会社のロゴを変えることも含めた、CI(コーポレートアイデンティティ)プロジェクトを発足しました。その時、社内の20代から50代までの社員を10人ほど選抜して、半年くらいどんなロゴがいいかを話し合ったんです。

なんでそんなに時間をかけて社員のアイデアを大事にしたかというと、名刺交換をした時に「このロゴ、自分たちで作りました」って言えたら最強のコミュニケーションツールになるなと思っていたんですよ。そこが最初はデザイナーさんに伝わりきらず、こっちの思いも的確に伝えないと、いいデザインが上がってこないんだなと言うのをこの時に実感しましたね。

佐野

そう、デザインは、デザイナーの作家性からはじまるものではなく、「対話」からなんですよね。僕はデザインというものはつくるというより、発見していくものだと考えています。あくまでもクライアントが何を課題としていて、何を世の中に発信していこうとしているのか、の対話からはじまるものだと思います。それを届ける方法が「だったらこの言葉だよね」という言語であったり、逆に色や形などの感性の面から見つかることもあるかもしれない。

アプローチは様々だと思いますが、よいデザインを発見するための「要素づくり」ができるチームであるかどうかが大事なんだと思います。

良いデザインとは、後から必然性に気づくもの

佐野
最後に、菅井さんが考える「いいデザイン」について聞かせてください。
菅井

僕はファミコン世代なんですが、任天堂のファミコンの色に、えんじ色が使われている理由をご存知ですか?ファミコンの親と言われて、亡くなられた元社長の山内さんがいつも身につけていた大好きなマフラーがえんじ色だったそうです。ファミコンをデザインしたデザイナーは山内さんをリスペクトされていて、どこかエッセンスを入れたかった。それって、ユーザーである我々は全く知らないことですよね。でも、時代が流れて行き、その偶然が必然であったかのように、もうファミコンといえばえんじ色の確固たるイメージがあります。

もしかすると最初は違和感があったのかもしれない。でも、「後から必然性に気づき、それが時間をかけて愛されていくものになる」、良いデザインってそういうものだと思います。


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菅井 伸一(すがい・しんいち)
株式会社ヒロセ 代表取締役社長

1945年創業の靴卸会社「株式会社ヒロセ」の代表取締役。1998年入社、2015年に代表就任。総務経験を活かし社外監査役、新規事業展開のために靴職人としても現在修業中。「東北大学地域イノベーションプロデューサー塾」2015年3月卒塾(二期生)。

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佐野 彰彦(さの・あきひこ)
株式会社それからデザイン代表 クリエイティブディレクター/ブランドデザイナー

企業・事業・商品・サービス等のブランドをつくるデザイナー。ブランドコンセプト、ネーミング、ライティングのコピーワークから、CI/VI、ウェブ、グラフィック等のアートワークまで一貫したプロデュースを手掛け、クリエイティブの活動領域は広い。主著に「経営者のためのウェブブランディングの教科書」がある。 2015、2016年グッドデザイン賞受賞。


次回の“besign” talk meeting(ビザイントークミーティング)

第2回 ブランディングのためのデザインチームのつくり方 ─企業とデザイナーの組み合わせのコツ
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“besign” talk meeting (ビザイントークミーティング)とは?

ビジネスとデザインの関わりを学ぶトークイベント。 “besign”とは、businessの「b」、design の「d」を入れ替えて作った造語です。隔月交互に経営者とクリエイターをゲストスピーカーとして招き、「ビジネスとデザインのあいだ」にスポットを当て、参加者と共に語り合っていきます。 「ビジネスとデザインの溝が埋まると、きっと社会はもっと面白くなる」 その仮説と各ゲストの視点を元に、デザインの可能性を探っていく場です。

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