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ことばでブランディングする ─言葉の力で企業の意思を浸透させるコピーライターの思考 ≪後編≫

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ビジネスとデザインの関わりを学ぶトークイベント「“besign” talk meeting(ビザイントークミーティング)」。2018年12月11日に開催された第6回のゲストは、広瀬さとし事務所株式会社 代表 広瀬さとし氏です。 広瀬氏の紡ぎ出す言葉は、どれも分かりやすく端的で、心の深いところに強い印象が残ります。数々の企業や商品のプロモーションを手がけていらっしゃる百戦錬磨のコピーライターであることは間違いないのですが、広瀬さとし事務所のウェブサイトのあるページには、「書くより先に、聞けるかどうか。」と書かれています。取材実績は2500人以上。数多くの実績を積み上げてきたコピーライターの思考とは?株式会社それからデザイン代表の佐野が聞き手をつとめ、「ことばでブランディングする」と題し、ビジネスにおけるコピーの力と役割についてお話いただきました。

前編はこちら

“あなたとの関係性”をつくる

佐野
企業ミッションをつくる仕事の場合は、社内の定性的なインタビューだと思いますが、商品のプロモーションの場合はどのように取材をするのでしょうか。広瀬さんの手がけられている中で、たとえば“鎌倉紅谷”のような仕事はどうでしたか?モノを外に売っていくためのコピーの仕事の場合、たとえばマーケティングも重視されるのでしょうか?
広瀬

コツがあるんです、物を売るためのコピーは。「あなたとどう関係あるのか?」ということを言ってあげるんです。「うちの会社はこうです」「うちの商品はこうです」と言うだけでは、読んだ人、見た人は、自分との関係性が理解できない。「どう美味しいんだろう」とか「どう私を幸せにしてくれるんだろう」とか「どう豊かにしてくれるんだろう」ということを伝える。BtoBだったら、「うちの会社の課題をどう解決してくれるんだろう」という部分です。

“トータルソリューションで、バックアップ致します”というコピーに具体性はないでしょう。それを「私たちはこれこれこういう仕組みを考えて、こういう段取りでやります。で、実際こういう人たちに喜ばれました」と言ったら、「うちの会社も助けてもらえるかもしれないな」と思ってもらえる。「ターゲットであるお客様=自分」とどう関係あるかということを、語れるかどうかが大事なんです。

あと、食品だったら美味しそうに見せる、それが全てだと思っています。見て実際に食べたくなるかどうかだと思います。そしてさらに言葉でたたみかける。相手から見て「これ普通の羊羹でしょ、普通のまんじゅうでしょ」って思われているなら「違います」と言う。「この中のあんこは、これこれこういうところで作っているから美味しいんですよ」っていう説明が入ると、美味しい気持ちが継ぎ足される。そういうことを伝えておくと食べた人に自己肯定感が広がっていき、食べた時も「やっぱり美味しいね」ってなる。それが言葉で関係性をつくることの利点です。

佐野
確かに、言葉でつくられるイメージの力は大きいですよね。事前情報を与えることによって、生活者の捉え方や感じ方をコントロールしていくのが、広告コミュニケーションの基本的な考え方でもあるのかなと思います。
広瀬
“鎌倉紅谷”様のときは、もともとウェブサイトの原稿を依頼された案件でした。その流れでトップページのメインコピーも書いたのですが、何案かの中に、面白おかしいコピーも混ぜておきました。そうしたら経営陣満場一致で、その案に決まったんです。さらに皆さんが積極的にインスタグラムやツイッターでもそのコピーを発信されるようになりました。“自分たちが選んだ、いっしょに作った”という意識があったのだと思います。・・・このコピーわかりますよね? 何を下敷きにしているか。
佐野
はい。これはわかりやすいです。“いい菓子つくろう鎌倉紅葉”(笑)。
広瀬
これが選ばれたときは、えっ…と思ったんですけど、すごく喜ばれたんですね。こういうユーモアが通じる会社なんだって嬉しくなりました。この会社はカフェ事業も立ち上げて、そこでのコピーが、“いい時間過ごそう鎌倉紅谷”。これは私が書いたわけじゃないんですけど、同じバリエーションでやろうということで、お客様が自ら考えられたものです。
佐野
「どう関係があるかを伝える」とおっしゃいましたが、買う側の人と売る側の接点をつくるとも言えそうな気がします。そこをつなげる具体的な法則やアプローチ方法はありますか?
広瀬
商品の向こうにいる“つくっている人”。そこまで一緒にコピーに練り込むことです。たとえば「いい人がつくっているものって美味しいよね」、とまずは仮説を立てます。そして実際に取材をして、一日中、キャラメルを練っている人がいたとします。そういう頑張りの成果、手づくりのものがまずいわけないよね、っていう想いを伝えるようにします。
佐野
生活者のニーズからというよりは、企業の中の良さから着想する感じですか?
広瀬
ニーズについては最低限自分も経験します。食品に関わる仕事のときは、全部食べてみます。講座の受講生が書いた食品のコピーを見たときなど、食べてないで書いているものは一発でわかります。家具のコピーも、たとえばソファーなら座ったことがないままで書いたのはわかるんです。どうして試さなかったのか理由を聞くと、「まだ開発ができてなかった」「食べさせてくれなかった」と。「食べさせてくれなかったなんてことは理由にならないから」って極端なことも言います。それをやってこそ、書けるんだよって。ホテルウェディングの場合もそうでしたけど、あそこのコンソメは抜群に美味しい。もうレベルが違うんです。でも、それを知ったからこそ、安心して書ける。この「安心」っていうのが大事なんです。自分で読んで「大丈夫かなあ」って思ってしまったら、読む人にもそれが伝わるということですね。
佐野
たしかに自分でそう思っていないことを表現するのはできないですよね。デザインの仕事も同じだと思います。でも逆に、経験した結果、共感できなかったときはないですか?たとえば、美味しくなかったケースとか?
広瀬
でも世の中には、これが好きだという人もきっといるはず。自分の好みだけが正解じゃないと考え直します。自分好みではなかったとしても、いっぱいお客さんがいる店もある。「ああ、こういうのが好きな人もいるんだ」っていうことで、そこを尊重してあげなければいけない。自分だけが王様で、唯一無二の絶対的な判断者ではいけない。その会社、その商品の良いところを探すようにします。あるいは良いように転換するようにします。自分だけの物差しをつくっちゃダメで、色々な物差しがないと、広告屋としては失格。そこは謙虚にならないといけないですね。

いいコピーが集まるかどうかは、オリエン次第

佐野
この英会話学校の事例についてお伺いさせてください。こちらはモノではなくサービスの業態になると思いますが、この仕事はどのようなきっかけで始まったのでしょうか?
広瀬
この時は、事業の立ち上げ時からお呼びいただきました。英会話業界はユーザーにとって見えづらい部分もあるから、一石を投じようというところから始まりました。ひとつは価格の問題。英会話教室って高い、それに対して価格破壊を起こそうということで。
佐野
広瀬さんに白羽の矢が立った経緯は?
広瀬

私に話が来る前に、クラウドソーシングでキャッチコピーを公募していたと聞きました。「クラウドで500本も提案が来ているんだけど、全部ダメなんだよね…」と責任者の方がおっしゃっていました。そこで困って私を検索で見つけていただき、スローガンを提案することになりました。

それで、まず社長に2時間インタビューしました。さらに2回目に現場の人と2時間会議し、聞き足りないからと3回目もインタビューしました。合計で6時間ですね。それでスローガンの案を作成して、プレゼンしたんですけど、その間もクラウドソーシングの依頼を止め忘れていたようで、計1391本も提案が来ていたとのことです。それも全部見た上で検討されたようでしたが、結局私の案で決まって、担当者の方や社長、いろんな方からお礼のメールが届きました。

ただ、ネットの向こう側(クラウドソーシング)の方々が、能力ないわけではないんです。そもそもいい案を提案するには、オリエンで入手できるデータだけでは足りません。用意されたデータだけで書くのと違って、私は6時間もお客様の話を聞いたわけです。だから的に当たる可能性が高くなる。インタビューした時に、「そもそも、英会話って高くないですか?」って、私は直接聞いています。そのコミュニケーションがない状態では、クラウドやリアルを問わず、誰に頼んでも刺さる案を出すのは難しいと思います。

佐野
発注者側からしたら、どう伝えたらいいでしょうか?よい提案を引き出すための、オリエンのコツはありますか?
広瀬

まず「これが全部です」って言わないことだと思います。こう思っている、こう言う状態だって言うことを一応説明した上で、そこから提案者に、「足りないことはありますか?」とか「何か気が付いたことはありますか?」と聞くと広がりが出てきます。オリエンの場だけでなくて、後日でも、提案者側がわかっていない部分、聞けていない部分を質問できるような関係をつくっておく。そうすると、自然にやり取りが発生して、そのやりとりの中に、重要なヒントが入っていたりします。

自分のことって自分が一番わかってないんです。だから外部の私たちから質問されると、「そういえばそれって考えたこともなかった」となる。それをきっかけに事業が飛躍することさえあるんです。

佐野
逆にコピーライターなりデザイナーなり、依頼を受ける側の人にとって、オリエンをされるとついついそれが全てになってしまう場合もあると思いますが、そうならないようなコツはありますか?
広瀬

一旦はオリエンの内容は受け取ります。その上で、「ちなみに、ここがわからないんです」と尋ねますね。オリエンの内容と矛盾を感じたり、納得いかないことがあれば、「ここちょっとがピンと来ないのですが」と伝えます。仮に質問しても、これが全部だということで追加情報が出てこないとしたら、どういう穴があるのかを探して、その穴を埋めるような案を出します。

広告業界の格言として聞いた話ですが、“言われた通りつくるバカはいない”と。サプライズがなければお客さんは喜ぶわけもないし、納得するわけもない。

でも以前、私も失敗したことがあります。「この10か条に沿って提案ください」というようながんじがらめのオリエンされちゃって、その通りにつくったんですね。その時、これ出したってどうせダメだよな、っていう雰囲気のまま提案まで進んでしまいました。反省しましたね。いくらルールがあっても、それを跳ねのけるような案を出さなきゃいけないんだなって。なので、サプライズを考えます。「こういうのだってあるんじゃないですか」という提案をしたら、それが通る場合もあるんです。

佐野
それこそがクライアントからしたら大事な部分かもしれないですよね。お客さんが求めているのは指示に従うことではなく、自社のビジネスへの貢献につながる提案ですから。
広瀬
そうなんですよ。言った通り持ってきたら、頼んだ意味ないねってなっちゃいますよね。

瞬間風速の後で、ずっと生き残るもの

佐野
案件がとても幅広いなという印象があります。商品やサービスの広告もあれば、コーポレート全体のミッションやスローガンの作成、周年の取り組み、採用PRなど、いろいろですよね。会社の内側、外側、短期的、長期的とありますけど、広瀬さんが一番やっていきたいことはどんなものでしょうか?
広瀬

やっぱり、長期で使って頂ける言葉、コンセプト、そのプロセスをつくることがやりたいですね。ただ、そういう仕事は少なくとも半年くらい掛かります。制作の仕事としては、キャッシュフローのことも考えないといけないから、前金を用意していただくなども気を使います。これはけっこう、フリーランスの方々にとって重要です(笑)。

ただ、短期的な結果を求められる仕事にしても、その時は瞬間風速的にバズらせつつ、落ち着いてからもずっと生きていくものじゃないとダメだとは思います。普遍的なものをつくりたいです。前出の“肉が嫌いか”というコピーは、半年だけの掲示と割り切ってつくりました。その後に“世界よ、私はここにいる”とか“配役は変わる。舞台は降りない”といった勇気付けるフレーズをつくって出し続ける予定でした。でも、1回は花火打ち上げないと、“こいつら何なんだ!?”って思ってもらえないので、やるときはやります。だから、「今必要なものはどっちなんだろう?」ということは考えます。もし、“肉は嫌いか”を10年やってたら、まだ肉やってるの?になっちゃうでしょう。ほんと花火ですよ。数週間持てばいいなって思っていたんですけど、意外に長く持っているみたいです(笑)。

佐野
企業には、瞬間風速で広告の力が必要になるタイミングがあって、広瀬さんのようなクリエイターと出会えて、それをうまく活かせた場合はすごく良いと思います。打ち上げ花火でバーンと目立った後に一定のところで残り、ブランド化していく場合がある一方で、そのまま萎んでなくなっていく場合もあると思います。その違いって何だと思いますか?
広瀬

まず、商品の消費が早いことがありますよね。たとえば、ビールという商品は、新商品を出してバズり続けなければいけない宿命があります。昔からのブランドで変わらないものもありますが、多くの企画商品は出しては次、出しては次みたいなビジネスサイクルが前提のものも多いですね。

あとはずっと売れているけど、もう一回思い出してもらわなきゃいけないというものもあります。世の中の事例で言えば、チョコボールとかカップヌードルとか。長く売れ続けているんですけど、やっぱりそのままではジリジリと下がっていく。だから1回ポンっと上に上げなきゃいけないタイミングがある。商品の需要によるところも大きいですね。

佐野
たとえば企業の体質や経営者の資質、従業員のレベルといったところで、うまくいくケースとそうでないケースはないですか?
広瀬

うまくいく、いかないという定義がなかなか難しいですけど、クリエイター業は、基本的にはお客様あっての受託なので、お客様が何を求めているのか、懸命に要望に応えるようにしています。

失敗もいっぱいあります。ヒアリングして何十案も考えて、自信を持ってスローガンを提案したら、「うちの会社をバカにするな」って言われちゃったこともある。いや現状をヒアリングした限りだと御社はこうでしたから、こういうコピーになりましたとお伝えしても、納得していただけない。こちらとしては、受け取りやすいものつくったつもりなんですけどね。たとえばトップブランドに似せたいなら最初にそれ言ってよとは思いましたが、これはヒアリングのミスでもあります。ただ、そうした方向性に持っていっても受け手にとって他人事になってしまう。そういう場合は苦しいですね、自分の心が股割きの状態になってしまいます。

もちろん、要望にあわせるのも良いんですが、明らかにピントが狂っていたり、それで誰が幸せになるんだろうって疑問に思ったりしたら、「違うと思います」と伝えるのも誠意です。ただ、“でも社長…”っていうような会話でもう一回グリップしていくのってものすごいエネルギー使うんですよ。経営者の方の会社に対する見方とか、コミュニケーションとか、どこかで矛盾をはらんでいたりする。僭越な物言いになりますが、実際に大きく成長していく会社は、やっぱり経営者のスタンスが違うと感じています。

佐野
経営者とのコミュニケーションの取り方で、何か気をつけていることはありますか?
広瀬
粘り強く、短気を起こさないということです。正直、全く噛み合わないこともあります。いきなり1年で世界的なナショナルブランドに比肩したいなんて無理でしょう、とか・・・。どんなに素晴らしいデザインやコピーを持ってきても、そんなブランディングできるわけがない。粘り強く対話していても、「逆にお前が分かっていない」と言われ、切られてしまったこともあります。でも、その後につくられたアウトプット見ても、やっぱり思った通りの残念な結果なんですよ。そういう意味では逆に自信になりますけどね。間違ってなかったな、と。
佐野
それでお客さんが戻ってくることもあるのですか?
広瀬
ないです(笑)。こいつは分かってないと思われたなら、それはそれで仕方が無い。お世辞みたいなコピーをつくるのは簡単ですし、ストライクゾーンですって喜ばれるかもしれない。お仕事としてはそこで終わりかもしれないけど、私としては、書き手として、罪を積み重ねているような感覚です。それをやりたくはないと思っています。

ブランディングにはこだわらない。会社が発展するなら

佐野

広瀬さとし事務所のサイトにすごく面白いことが書いてあって、“ことばブランディング”というページがありますよね。「このブランディングといういかがわしい領域を、私はこう整理して考えました」とあります。その中で特に印象的なのが、「市場や見込み客との接触面積を最大化する。そして長期の視点で浸透させていく。それがブランディングであると考えます。」ということが書いてありました。まさに、ビジネスとデザインの関わり方の重要なポイントの一つだと思いました。短期的にバズを起こす、瞬間風速を上げる必要もあるんだけれども、そこだけでクリエイターの仕事が終わってはいけない。僕もスタンスとして大事にしている部分でもあります。長期的に最大化していくことがブランディングである、という主張にとても共感しました。

広瀬さんは、コピーライターとして言葉を起点に、様々な経験を積まれてきていらっしゃいます。僕の場合は、ウェブデザインやグラフィックデザインというところが自分のキャリアの出発点でもあるので、ビジュアルのところから相談を受けることも多いですけど、結局やっていることをみると、お客さまへ最終的に提供すべきことは、コピーライターもデザイナーも実は同じで、つまり長期的な視点での価値づくり、ではないかと。

今日のトークイベントは“ことばでブランディングする”という副題をつけています。広瀬さんは“ブランディング”についてどうお考えでしょうか? 企業や今後のビジネスにとってブランディングは、どのような役割を持つと思いますか?

広瀬
私は、ブランディングということに対しては極端な考え方を持っていて、商品が売れるなら、会社が発展するなら、ブランディングをことさら意識しなくてもいいと。会社が世の中の皆さんに知られて、従業員の方が幸せになって、売りやすくなって、実際に売れて、その先に世の中が幸せになるということが大事ですよね。ブランディングなんてわざわざ謳わなくても、かっこいいコピーがなくても、会社が成長するならそれでいいじゃないかと。でも一方で、やっぱりブランディングを気にするからこそ、できることもあるとは思います。
広瀬

なぜ“いかがわしい”という過激な言葉を出しているかについてお話します。ある企業の広告を担当した際にあったことなんですが、そこはすでにブランディング会社にスローガンを頼んでいたんです。そうしたらたいそう立派なファイル入りの提案書が出てきまして、スローガン一行で数百万円かかったと。並行して私も広告用のフレーズを作成していたのですが、広報や現場の皆さんが「スローガンってこっちの(私の)ほうだよね」と思い込んでいた。でも、もう契約しちゃって進んでいるので止められない。その時、価値の分からない商売があるものだなと、つくづく思いました。誰も幸せになっていないんです、その数百万円かけた一行に誰も感動しないわけですから。そんな商売は絶対におかしいと思いました。だから“いかがわしい”という言葉を使いつつ、もっと成果を出るものをやっていこうという意味で、自社のサイトにそう書いています。

反応が出てなんぼなんです。昔のスタイルで言えばハガキが何通戻って来てなんぼっていう職場で、“反応が出なければ人にあらず”で私は鍛えられましたから。そういった部分がまだ自分の中で生きているんだと思います。言葉として評価されるのと、成果が出ることが一致してほしい。いくらロジックを立てて、これですよって理屈を立てても、それが人の心を打たないなら価値はゼロです。

佐野
“成果”というところで伺います。たとえば、モノを売るマーケティング指標や売上アップという成果もあれば、企業ミッションやスローガン等に期待されることは、社内の活性化などインナーブランディングもありますよね。数値化しにくい部分もある中で、そのわかりづらい部分の成果はどう捉えるのでしょうか。どういう風にお客様に対して価値を示していくのでしょうか?
広瀬
インナーブランディングの場合は、“決めていくプロセス”も成果です。会社で働く人ひとりひとりが気づき始めること、自分のこととして会社を考え始めること、それが成果ですとお伝えしています。一方、商品を売らなくてはいけない場合や求人採用などは明確で、我が社、我が商品はここにあり!とまず狼煙を上げなくてはいけない。そして問い合わせがどのくらい来たか、どのくらいクリックされたか、どのくらい売れたか。Webであれば、いまは反応がすぐわかりますよね。あと売れた売れないは別として、どのくらい読まれたかっていう指標もあります。

よいデザインとは

佐野
では、最後の質問です。広瀬さんにとっての“よいデザイン”とは?
広瀬
人の心を動かすか、つまりそれが売れるか、評価されるか、好きになってもらえるか。そういった“成果”を出すものこそが、良いデザインだと思います。そこにはお金のやり取りがあり、プロでありビジネスですから、対価をきちんと返さなければいけないわけです。その対価を別な言葉で表現すると、お客様の希望ですよね。会社を有名にしたいのか、商品が売れて欲しいのか、従業員が元気になって欲しいのか、というような希望に応えられないものは、価値がないと私は思っています。そうすると、いつの間にかブランディングにつながっているわけですね。逆に、作り手のマスターベーションというか、自己満足っていうのは絶対に避けたい。自分では納得いかないものをつくっちゃったなと思っても、お客さまが喜び、売れるのであれば、それは正解です。だから、私は“作品”って言葉が嫌いです。私のサイトでは、極力作品という言葉を使っていません。同じく “クリエイター”って呼ばれるのも実は嫌なんです。“私はビジネスマンであり、言葉を使うビジネスパーソンですから。あと“クライアント”って言葉も嫌いです。お客様ではないでしょうか。
佐野
広瀬さんが、仕事に対して、お客様に対しての愛をすごく持って取り組まれていることが伝わりました。“成果が出るもの”というシンプルな言葉であるがゆえ、とても力強く、私自身もやっていかなければと、学ばせていただきました。
広瀬
でも、お客様の奴隷ってわけではないですからね。本当にわかんないなとか、やばい案件だなってときは、逃げるのも大切です(笑)。
佐野
確かにそこも重要ですね(笑)。今日は素晴らしい話を本当ありがとうございました。

【 番外編:質疑応答 】

Q1. コピーを提案するときに、50案くらい出して、その中にはあえてこれはないだろうという案を出されるということでした。それを、お客様が選んでしまうことはありませんか?

広瀬

ほぼないです。提案前の取材などで関わっていくうちに、お客様が分かってくるんですよね。憑依するって言い方ありますけど、阿吽の呼吸ができるようになってくるのかもしれません。そこまでならないとダメだとも思っています。じゃあ不要なもの出す必要ないんじゃないかと思うかもしれませんが、念のためというか、やっぱそうだよね、この路線はないよねっていうのも大事なんです。

ひょっとしたらもっといいものがあるかもしれないと自分で理性を働かせた上で、セレクトした感覚が必要です。共に仕事をした感覚をお客様に差し上げることも大事ですよね。だからこれしかないです、っていう決め打ちの出し方はしないですね。

Q2. デザイナーの選び方と、デザイナーとの付き合い方や、やりとりのコツなどについてお聞きしたいです。

広瀬

デザイナーの選び方は、この案件にはこの人かなとか、いつも頭の中で浮かべていて、オリエン聞きながら、この人かなこの人かなと考えています。作風だけでなく、デザイナーのコミュニケーションスタイルも重要です。このお客様は修正が多くなりそうだなって時は、粘り強い人とか。

デザイナーとの付き合い方については、この人はエネルギーのある人だから、細かく指示はしないようにして、任せちゃったほうがいいかなとか。案件の性質と、デザイナーのスタイルが噛み合うことを大切にしています。ただデザイナーは、常に開拓しておかないというのもあります。依頼する人が偏ってしまうので、それが課題ですね。気がついたら、3人ぐらいに絞れちゃったりしているので。

Q3. たくさんの案をつくるということですが、オリエンの方向性と自分の共感したポイントから浮かぶもの以外に、他の切り口やはじめからは思いつけなかったアイデアを考案するにはどうすればよいのでしょうか?

広瀬

たとえばコピーなら、書き出していくと、まずどこかで案が出なくなります。そこで一旦やめます。でも、作業は中断しても、脳が勝手に考えている状態になります。あまり出ない時は、散歩に行ったりしますね。歩くとアイデアが湧くことも多いです。あとは、近くのプールに泳ぎに行くとか、全く違うことをやります。それと、自分を多重人格にするためにいろんなものを読みます。

結局自分にないものは、他から持って来なくてはいけないので、フレーズそのものは持って来たらまずいけど、単語とか切り口とかは持って来られる。ですので、一生懸命インプットするということを延々と繰り返しています。私のパターンとしては、2週間制作をして、1週間検証ですね。ざっと書いておいて、それをパワポに1枚にまとめたり、発表の時に見直したりしています。お客さんに出すギリギリで思いつく時もありますし、これを最後に出しておけばよかったと思うときもあります。

答えになっているかわかりませんが、考えるのをやめる、体を動かす、インプットする、あとはふて寝する、そんな感じです。まあでも、あまり寝られないですけどね。結局考えているので。いつ出てくるかわからないので、スマホもタブレットも手書きのメモ帳も、いつも用意しておきます。ポケモンばっかりやってるわけじゃなくて、メモしている時もありますから(笑)。

Q4. “宝探し”とおっしゃっていたのがすごく、共感を覚えました。でも、いくら探してもないというケースはないですか?

広瀬

宝がない会社はないです。これはもう信じるしかない。どんな人にもいいところはあるし、業界5位だから悪いとかいうわけではない。絶対値で見ちゃダメですよね。「業界5位だから、うちなんかいいところないです」ってお客様が自分でいうこともありますが、そんなことないわけです。聞いていると良いものが必ず出てきます。定量的なもの以外の、定性的なもの。それもまた宝です。一生懸命探して探して、ようやく出てくるものなんです。

でも、インタビューの力やお客様の業界の基礎知識がないと見つかるわけがないので、事前の勉強をします。しすぎちゃって自分が分かった気になってもいけないので、多少知らないくらいの方がいいかもしれないですけど。宝は必ずあると信じて、探す能力、探す気持ちを高めることでしょうか。

編集/それからデザイン ライティング協力/大関勇気


広瀬 さとし(ひろせ・さとし)

広瀬 さとし(ひろせ・さとし)
広瀬さとし事務所株式会社 代表

制作プロダクション、代理店など4社を経てリクルートへ。同社プレイングマネージャー第1期生。 在籍中は優秀経営者賞、論文優秀賞、社内提案大会金賞(共同提案)、クオーターMVPなどを受賞。

リクルートへ入社した初年度、制作職として事業部平均に対し2,7倍の生産効率を記録。 某大学向けに作成した広告で問合わせ激増、入学案内2000部増刷。 Car sensorマネージャー時代に担当グループの売上を2倍に拡大、翌年原価を1/2に削減。

2001年独立。コピーライター、クリエイティブディレクター、コミュニケーションコンサルタント、 インタビュアーとして活動中。2,500人超の取材実績あり。

広告賞は東京コピーライターズクラブ会員(新人賞)、朝日広告賞入選(広告主参加の部)、読売広告大賞コピー部門・最優秀賞1回優秀賞2回(3年連続入賞)、京都新聞広告賞滋賀県知事賞、宣伝会議賞、広告電通賞など

事業会社やコンサルティングファーム、さらには公共団体や専門学校において講師歴多数。 テーマはコミュニケーション全般からセールスコピーライティングまで多岐にわたる。 宣伝会議社の講座に登壇する講師陣(約700名)の中で、アンケート評価上位5% 。

経営労務コンサルタントの資格保有。著書に「辞めるな!」

佐野 彰彦(さの・あきひこ)

佐野 彰彦(さの・あきひこ)
株式会社それからデザイン代表 クリエイティブディレクター/ブランドデザイナー

明治大学理工学部数学科卒。株式会社それからデザイン代表。
企業・事業・商品・サービス等のブランドをつくるデザイナー。ブランド戦略から、デザインワークまでを一貫してプロデュースするコンサルティング型のデザイナーとして活動している。ウェブデザイナーとしてキャリアをスタートさせた後、現在は、ブランドコンセプト、ネーミング、ライティングのコピーワークから、CI/VI、ウェブ、グラフィック等のアートワークまで手掛け、クリエイティブの活動領域は広い。10年間で250以上のウェブサイトを制作してきた経験から、「ブランディングの最重要ツールはウェブサイトである」という考えに至り、ウェブコンテンツの企画メソッド「3S6G法」を考案。ウェブサイトを軸に展開するブランディング手法を「ウェブブランディング」と名付け、この分野のパイオニアとして、全国の経営者からオファーが多数寄せられている。

主な著書に「経営者のためのウェブブランディングの教科書」「ウェブ担当者1年目の教科書」(共に幻冬舎)がある。 2015、2016年グッドデザイン賞受賞。


次回の“besign” talk meeting(ビザイントークミーティング)

第8回 データとデザインの関わり方 ─マーケティングリサーチから探るデザインの最適解 #バックナンバー(過去のイベントレポート)はこちら
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“besign” talk meeting (ビザイントークミーティング)とは?

ビジネスとデザインの関わりを学ぶトークイベント。 “besign”とは、businessの「b」、design の「d」を入れ替えて作った造語です。隔月交互に経営者とクリエイターをゲストスピーカーとして招き、「ビジネスとデザインのあいだ」にスポットを当て、参加者と共に語り合っていきます。 「ビジネスとデザインの溝が埋まると、きっと社会はもっと面白くなる」 その仮説と各ゲストの視点を元に、デザインの可能性を探っていく場です。

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