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デザインの力で仙台を盛り上げる「とうほくあきんどでざいん塾」

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それからデザインスタッフの佐山です。

東京・笹塚に本社をかまえる弊社ですが、現在わたくし佐山が宮城県仙台市にて仕事をしています。そこで今回は、東北・仙台の話題を取り上げてみたいと思います。

ご紹介したいのは、つい先日セミナーに参加した「とうほくあきんどでざいん塾」について。「とうほくあきんどでざいん塾」という名称、このブログをご覧頂いている方でご存知の方はおそらくあまりいらっしゃらないと思うのですが、仙台市が産業改革の一環として行っている事業のひとつです。

今回参加したセミナーは「とうほくあきんどでざいん塾」の2015年度キックオフということで、事業の概要やこれまでの取り組みなどをおうかがいすることができました。仙台や東北の方でなくとも、中小企業の方やクリエイターの方にとっては「地方でこんな取り組みがされているんだ」と興味をそそる内容かと思いますので、ちらっと目を通していただけるとうれしいです。

とうほくあきんどでざいん塾とは?

仙台市のホームページから言葉を借りれば「主に仙台市内のすべての中小企業を対象に、商品開発やプロモーション、パッケージなどに“デザイン”を活用する意義や手法、成功事例などを伝えることを目的に、セミナーや相談会の開催、企業ヒアリング、冊子の制作などを行います。」とのこと。つまり、パッケージや商品の見せ方、ブランディングなどに課題を抱える中小企業をデザインの力でさらに盛り上げようという事業です。

開催されているセミナーを見てみると、「新商品広報のための、効果的PR攻略講座」「デザインで差がつく!食のパッケージデザイン講座」「ブランディングのためのデザイン相談会」など、中小企業の悩みにマッチしたテーマが多く見られます。さらに、実際に課題を解決するために相談にきた企業の方には、マッチするクリエイターを紹介し、そこからパッケージやウェブのデザインといった仕事が生まれているそうです。

震災後の2012年7月からスタートし今年で4年目。マッチングの成功例も年々増えているとのことで、デザインの重要性を感じている地方企業が多いことに驚きました。

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興味深いマッチング事例の数々

とうほくあきんどでざいん塾では、毎年の活動が終わるごとにその年の事例をひとつの本にまとめているそうです。参加したセミナーの会場でも2013年度と2014年度の事例集が、最近のパッケージデザインの実例とともにディスプレイされており、なかにはたくさんの事例が掲載されていました。掲載されているパッケージや名刺の完成デザインもさることながら、そこに至るプロジェクトそのものがとても興味深い事例ばかりだったので、その中からいくつかご紹介したいと思います。

事例1:新商品開発とパッケージ&リーフレットデザインで新たな客層を取り込んだ納豆屋さん

従来の顧客層は50代以上の女性がメインでしたが、その娘や孫世代も新たなターゲットに加えるため、デザインで差別化したいと考えていたそう。さらに、普段あまり納豆を食べない方にもアピールできる新商品「納豆麺」を構想していたため、これを新たなターゲットにうまく訴求するには?ということでプロジェクトがスタート。

プロジェクトでまず行われたのはこれまでの商品のターゲットや特徴を整理し、新たな商品をどう差別化させるかを明確にすること。ターゲットや販路を細かく設定していったそうです。それと同時にデザイナーが行ったのが「ネーミング」「包装仕様」「ビジュアルデザイン」などの提案。試食会やネーミング検討会議、本社視察を重ね、アイディアと理論に基づいたデザインを作り上げていったという。

その結果、これまでにない納豆製品とそれに見合う目新しいパッケージ、パッケージデザインに合わせたリーフレットが完成。地元仙台だけでなく、むしろ東京や全国各地、海外へ発信していくことを目標としていたそう。ターゲット設定、商圏や販路、エンドユーザーにどう受け入れられるかを常に意識しながら進行したとのこと。

事例2:一般消費者向け商品の販売開始し、商品ラベルに統一感を出したいという考えからはじまったロゴ刷新プロジェクト

業務用水産加工食品をメインに事業展開してきた会社が、一般消費者向けに加工商品を開始しようとしたとき、社内にデザインのノウハウがなく、しかしラベルのデザインに統一感を持たせたいという考えがあったそう。また、同じタイミングで10年後までの新たな経営指針が固まったことでロゴの刷新を決意し、プロジェクトがスタート。

はじめにデザイナーが提案した8つのロゴデザイン案は、経営陣へのヒアリング、工場見学や商品の試食などを経て、企業の事業内容や将来の展望、これまでの事業領域、今後目指していく理想像など、様々な思案のもとに制作されたという。

また、ロゴを何に使うのか?最大サイズと最小サイズは?ということをロゴ決定前の初期段階で経営陣とともに話し合い、デザイン案があがった段階からは実際にロゴを使用する媒体(名刺、封筒、工場の壁面など)に当てはめたときにどう見えるのか?を具体的にイメージしながら絞り込み、精査していったそう。

最終的には経営方針や将来像と照らし合わせながら経営陣らが自ら議論を重ね、熟考の末に決定した新たなロゴ。地域資源や人とのつながりといったストーリー性のある会社のシンボルが完成し、名刺や封筒、会社案内のパンフレット、工場の壁面などに新たに配された。ロゴ決定までの過程で経営指針がさらに明確化されたことも、このプロジェクトの大きな成果だった。

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これらとうほくあきんどでざいん塾の事例から一貫して感じるのは、クライアントとクリエイターがチームとなってプロジェクトを進行しているということ。ただ言われたものを作る“業者”ではなく、会社の一社員のような、家族のような関係で、経営にも入り込んだ提案をする。そして経営者もまた、自ら進んでプロジェクトに参加しているということが強く感じられます。

参加者に聞いた仙台の業界事情

今回参加したセミナーには、クリエイターの方やSIerの方、日頃中小企業の経営者の方とお仕事をしている様々な業種の方が参加されており、仙台のビジネス事情(主にウェブ関係)について、何名かの方に話をきくことができました。

ウェブ制作会社の方:自社の見せ方やウェブサイトに関心を持つ企業さんは増えているように感じます。ただその反面、そこに予算をかけるという考えに至る経営者はまだ多くないように感じます。予算を提示したところでそんなにかかるの?と言われることもしばしば。

SIerさん:社内システムなどを構築しているのですが、この業界は仙台でもかなり発展していると思います。見た目というよりは仕組みづくりの部分ですが、案件も多いですし、求められている分野だと思います。

フリーのデザイナーさん:個人事業主の方や小さな会社の経営者の方でも、ウェブやパンフレットに興味のある方は多いです。ただやっぱり何をどこに頼んだらいいのか?というところが分かりづらいみたいで、一度お仕事をいただくとなんでもかんでも相談されちゃいますね(笑)個人事業の方はとくにですが、予算を抑えるためにある程度テンプレ化したものを提案することもあります。ウェブサイトやパンフレットなど。

コンサル業の方:仙台では、経営陣がわりとご年配という企業がまだまだ多いのが実情です。そういった方の中にはウェブだとかデザインだとか、見た目の部分は二の次という考えの経営者の方も多いかもしれません。でも、若い経営者に代替わりされた会社では、ホームページを新しくしたり、パッケージを一新したり、まさにとうほくあきんどでざいん塾がやっているようなブランディングにつながる施策に興味を持ってらっしゃる方も増えていると思います。

…などなど。

私自身、地元でありながら仙台の実情についてはほとんど知らなかったので、実際に地元で働く方々に聞いたお話はとても新鮮でした。

まとめ

関東圏と地方のビジネス事情を比べたとき、異なる部分は多々あると思いますが、東京では消費者の嗜好も情報の流れもとてもスピーディに、常にめまぐるしく変化しているように感じていました。多くの企業は圧倒的な企業数と競争率のなかで、それに合わせて変化していく必要がある、と。だからこそ、ブランディングやウェブといった見せ方の違いでどう差別化していくか?ということが求められるのだと思っていました。

一方、仙台という地方のビジネスを考えると、競争率はそこまで高くなく、情報量もそれほど多くない。消費者の嗜好もそこまでめまぐるしく変化するものではないように感じます。そんな中で、デザインやブランディングについて意識の高い企業がはたしてどれくらいあるものなのか…あまり多くないのでは?と勝手に想像していました。

しかし、実際に話を聞いてみると、仙台・東北という市場だけでなく関東圏や日本全国、さらには世界をターゲットとして見据えている企業が多くあり、その目的のためにブランディングやデザインを重要視している経営者も増えているということがわかりました。

また、20代、30代、40代の人たちにとって今や「ウェブで調べる」のが当たり前になっていることは仙台でも東京でも違いはありません。人によっては50代でも、検索するという行為が浸透しています。企業側の変化はゆるやかなものかもしれませんが、うかがったお話にもあったように、それに気づいている経営者や、経営者自身が若い企業はこれからどんどん増えてくるはず。

今回のセミナーに参加させていただいたことで、霧がかかっていた仙台のビジネス事情が少しだけかいま見え、仙台のこれからにとても可能性を感じました。

●「とうほくあきんどでざいん塾」とは?

中小企業とクリエイターを対象とした、クリエイティブ・サポート事業です。
本事業は、中小企業とクリエイターを対象とし、デザイン・クリエイティブに関するノウハウの啓発および利活用促進を目的としています。この事業をみなさまに親しんでいただくための呼称が『とうほくあきんどでざいん塾』。
「クリエイティブ・シェア・オフィス TRUNK」を運営する協同組合仙台卸商センター職員と専門コーディネーターが、それぞれの経験と専門性を活かし、企業とクリエイターをクリエイティブ面からサポートいたします。

● コーディネーター

長内綾子、佐々木美織、松井健太郎

● ウェブサイト

http://tohokuakindodesign.jp/

● 事務局[ 協同組合仙台卸商センター ]

〒984-8651 仙台市若林区卸町2-15-2 卸町会館5F TRUNK内
tel : 022-235-2161(代表)/022-237-7232(直通)
fax : 022-284-0864(代表)/022-385-7841(直通) e-mail : info@tohokuakindodesign.jp
facebook : tohokuakindodesign

● TRUNK|CREATIVE OFFICE SHARING

http://www.trunk-cos.com/

この記事を書いた人

佐山祐紀

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