TURN harajukuで開催しているトークイベント「考える種を蒔く人」では、「デザイン(Design)」の意味を広く捉え、新しいビジネスを生み出している人、クリエイティブな発想で活躍している人をゲストにお呼びし、これからのデザインの在り方を共に学んでいます。 5月13日に開催された記念すべき第1回目のゲストは、グラフィックデザイナーとして数多くのプロジェクトで活躍しながら、自身で立ち上げたプロダクトブランド「PINK FLAG」の代表としても活動されている佐々木拓人さんをお招きし「グラフィックデザイナーがつくるプロダクトデザイン」と題し、プロダクトデザインのお話をお聞きしました。
本業の傍らプロダクトブランドPINK FLAGを立ち上げる。
それからデザイン佐野(以下、佐野):グラフィックデザイナーの傍ら「PINK FLAG」というプロダクトブランドを立ち上げて、これが今スゴイ商品になってるとお聞きしたんですけど、ざっくりとどんな商品なのか説明してもらってもいいですか?
コンクリエイトデザイン佐々木(以下、佐々木):ざっくり言うと僕自身がD.I.Y.(Do it Yourself)の「まず自分でやってみよう」という精神が好きなんですけど、日本ではD.I.Y.本来の意味とは少し違う捉え方をされていて。エラそうなことをいうとD.I.Y.の精神を日本でも根付けることができる商品を作れればと思って始めたブランドです。
もともと自分の家で作ってたものが原型で、当時住んでいたのが20畳くらいの正方形の部屋だったんですが、正方形の部屋って使い勝手が悪いんですよ。長細い部屋なら奥に行くほどプライベート度合いを高めていけばいいんですけど、正方形の部屋では実はそれが難しい。そこでパーティション(間仕切り)を作ろうしたんですが、既製品で気に入るものがなかったんですよ。 「じゃあ作るしかないよね」というので作ったのがPINK FLAGの最初のプロダクトPILLAR BRACKETの原型になるものだったんですけど。 それを自宅に来た友達に見せたら思いのほか好評で「じゃあ製品化してみようか」というのが始まりです。
佐野:PILLAR BRACKETはホームセンターとかで売ってる2×4材と組み合わせて、床と天井を使って突っ張らせることにより、簡単に部屋の中に柱を作り出すことができるプロダクトなんですけど。僕も実は、自分の家で3箇所くらい作っていて、いろいろ引っ掛けたりとか、本棚作ったりして楽しんでるんですけど、結構面白くてハマっちゃうんですよね。
佐々木:ありがとうございます笑 こうやって作ってみて思うのは、うまく行く時っていろんな意図が一気に収束していくんだなと感じていて、日本の賃貸って穴が開けられなかったりするじゃないですか。この商品も「賃貸のために」と考えたわけではないんですけど、個人的にほしいと思って作ったものをどう「商品」として価値を見出していくかと考えていったとき、PILLAR BRACKETは偶然にも様々な意図がうまいことはまっていったんですよね。
まず、「日本の賃貸住宅の壁に穴が開けられない問題を解決できる」あと「工具がなくても手軽に始められる」「お手軽だけど作ったあとの達成感が大きい」というところです。だから、うまくいく商品にはそういった意図が収束していくんだなという実感がありますね。
価格は他社類似品より高い。それでも選ばれる理由とは。
佐野:PILLAR BRACKETを販売を始めてしばらくして、類似品がでてきたそうなんですけど。あまり売れてないんですよね?そっちは。
佐々木:あーそうですね。その話、します?笑
佐野:笑
佐々木:まあでも、デザイナーがこういった商品を作るとなった場合、「なにをデザインするのか」という話になると思うんですけど、例えばTシャツを作るとして”Tシャツ自体”をかっこよくデザインしても売れないと思うんです。それは多様な価値観や情報が溢れる世の中で100人いたら100人がかっこいいと思うデザインは作れないということであって、PILLAR BRACKETもこれの見た目だけを見て買おうと思う人はほとんどいないと思うんです。
PILLAR BRACKETは商品自体をかっこよくデザインするんじゃなく、「あそこにこの棚を作ったらステキな部屋になるかも」とか「おしゃれな自分になれるかも」とか、「買った後のイメージ」を購入の動機にできればと考えたんです。
佐野:なるほどなるほど。そこですよね。多分その類似品を出した会社は商品を”もの”として売ろうとしたんですよね。でも佐々木さんがやろうとしていることは最近言われている「モノよりコト」に着目しているんですよね。
佐々木:まあ実際、類似品が売れてないかはわからないですけど、そういう購入の動機付けやイメージの持たせ方なんかにはグラフィックデザインは関与できるんじゃないかと思えましたね。
佐野:インターネットで類似品なども探してみたんですけど、PILLAR BRACKETは普通にモノとしてもかっこいいですよね。たたづまいとかも、安っぽくなくて素敵だなと。
佐々木:僕はもちろん、プロダクトのデザイナーでもないですし、工場とやり取りするのも初めてですし、工業用の図面も引けないですし、まったく何もできないんですけど笑 でもデザイナーって佐野さんもそうだと思うんですけど、一つのジャンルだけやるわけじゃないじゃないですか?例えばアパレルもやれば、不動産系もやればというふうに、いろんな入力があったとしてもそれを自分の中の答えとして出すことができるということだと思うんです。だから上がってきたサンプルに対して、それが良いか悪いかの判断はできるんですよ。
佐野:うんうん。
佐々木:だからちょっとづつ前進というか笑 最初に上がってきたサンプルはいまとは似ても似つかないんですけど、サンプルに対して「ここをこうしてくれ、ああしてくれ」という作業を1年くらい続けてきて今の形になったっていう感じですね。デザイナーとしての感覚みたいなものがそういうところに活かされている気はしますね。
佐野:工場に発注して、値段をつけて、売るとか結構難しいイメージを持ってる人もいると思うんですけど、そのあたりってどうでした?例えば流通はどうするとか。今ってどうしてるんですか?
佐々木:今は弊社のWebサイトと恵比寿にあるPACIFIC FURNITURE SERVICE PARTS CENTERの2箇所だけです。現状は大手のホームセンターなどからも声がかかっても断っています。
佐野:その辺の取捨選択はどういう観点でやってるんですか?
佐々木:そうですね。そもそもデザインが本業だとは思っているので、そんなに商売として捉えていないというのもあります。あとなるべく自分の価値観が合う人と商売がしたいという思いがあって、ある程度シビアに見ようと思ってます。
アイデアの産みだし方
佐野:出来上がったものを見ると面白いものだなと思うんですけど、どうやってアイデアを出すんですか?
佐々木:アイデアはくだらないものを含めるといろいろ出てくるんですけど、、 例えばPILLAR BRACKETで言えば、僕はかっこいいパーティションが欲しかったんです。だけど売ってなかった。 ここでアイデア着想の条件が2つあって、明確な形(イメージ)はないけども欲しいものがあるということと、売ってなかったら作ってみようという精神。 ホームセンターに売っているパーティションを見て「これじゃない」ってことがわかって、そこから自分で作ってみるという流れになれば、それはもう商品企画をしているということなんですよ。これはD.I.Y.の精神にも通じるところで、選択肢はお店の中だけじゃなくて、自分で作れば選択肢も広がるんです。
佐々木さんにとってデザインとは?
佐野:佐々木さんにとってデザインってなんですか?
佐々木:デザインっていうのは、関数みたいなものだと思っていて、デザインっていう箱に何かを入れるとそれに対しての答えが返ってくる。それは問題解決やかっこいいものだけじゃなくて、例えば恋愛相談だとか、なんでも入れていいんです。その箱の関数はデザイナーそれぞれで違う。 もっと突き詰めていくと、いいデザインとは、美意識を伴った手段だと思います。デザインはそれ自体が目的ではなくて、やりたいことを実行するための手段(方法論)だと思うんですけど、いろんな手段が存在していて、ある意味どの手段も正解なんです。ただその手段の中に美意識があるかないか、というのが重要だと思います。
佐野:美意識とは具体的にはどういうことですか?
佐々木:ここでいう美意識は、かっこいいとかかわいいとか見た目のことではなくて、デザイナー個人の価値観ですかね。 自分はこうしたらいいと思うけど、一般的な考えとは違うから、なかなか受け入れられないということがあると思うんですけど、そんな自分の方法論と一般的な方法論の間をどれだけ埋められて、結果にのこせるかというのが、最終的に美意識と言えるんじゃないでしょうか。そういう過程を踏んだデザインの方が、個人的にも好きだし、結果としてもいいものになっているんじゃないかと思います。
まとめ
何事においても「まずはやってみる」というDIYの精神や姿勢が佐々木さんのクリエイティブな発想の原動力になっているように思いました。湧き出てきたアイデアを「自分がほしい」「かっこいいと思う」という自分のこととして考え、とりあえず「まずはやってみる(つくってみる)」ということ。それでうまくいってもいいし、失敗してもいい。型にはまらない柔軟なアイデアをつくるにはDIY精神が大事だと感じました。 そのうえで佐々木さんなりの美意識がプラスされることによって商品がより魅力的で温かみを帯びて見えてくる。佐々木さんのパーソナリティや大事にしていることが、商品自体にも滲み出ているんだと思いました。(Text:それからデザイン斧山)
SPECIAL THANKS:
CONCREATE DESIGN PINK FLAG