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仕事のオファーが絶えないクリエイターに見る ウェブ・セルフ・ブランディングの法則「考える種を蒔く人」vol.5 ≪後編≫

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TURN harajukuで開催しているトークイベント「考える種を蒔く人」は、「デザイン(Design)」の意味を広く捉え、新しいビジネスを生み出している方をお招きしているイベントです。

2016年12月に行われたVOL.5は、佐野彰彦(それからデザイン代表/ブランドデザイナー)が、VOL.1~4に登壇いただいた4名のゲストとのトークセッションを振り返りながら、4人のみなさんが「なぜ今もファンを獲得し続けているのか」「どのように自身をブランディングしているのか」といった本質に、鋭く迫りました。

前回お届けした「イベントレポート<前編>」に続き、今回の<後編>ではVOL.4のゲストでご登壇いただいたモルタル造形作家の栗原規男さんについての振り返りと、VOL.2のゲストであるスタイリストの綱島伸さんと佐野のトークセッションの模様をお届けいたします。(Report/杉山久美子@広報)

イベントレポート後編

佐野彰彦(それからデザイン代表/ブランドデザイナー、以下佐)ここまで、グラフィックデザイナーの佐々木拓人さん(コンクリエイトデザイン代表)とブランドコンサルタントの守山菜穂子さん(ミント・クリエイティブ代表)のトークセッションを振り返り、「ブランディング」と「ウェブ」の2つの観点から、お二人のビジネスの真髄に迫ってまいりました。

後半は、モルタル造形作家でありながら空間デザイナーでもある栗原規男さんと、テラス青山のヘアスタイリストとして活躍しながら他店のコンサルティングも手がけている綱島伸さんのお二方をフォーカスしたいと思います。 綱島さんには、本日お越しいただいておりますので、もう一度ご登壇いただき、熱いトークセッションをしながら、綱島さんの仕事術に迫ってみたいと思います。


モルタル造形作家の栗原規男さんのトークセッションより

みなさん、突然ですが、この写真はどこで撮られたものだと思いますか?

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まるで中世のフランスか…と思わずにはいられない写真ですが、実は埼玉県にある、栗原さんのアトリエ兼オフィスなんです。僕は勝手に「埼玉県フランス区」と呼ばせていただいています(笑)。

これからご紹介する栗原さんは、モルタル造形を日本の一般建築に普及させた第一人者ともいえる存在です。「考える種を蒔く人」VOL.4のゲストにお招きしたときは、クリエイターとしての生き様や純度の高いモノづくりの姿勢、そして、それらをしっかりと普及させていくビジネス感覚について、深いお話しをいただきました。

そもそもモルタル造形とは、セメントと砂と水を練り混ぜた建築材料の「モルタル」と塗装でつくる造形技術のこと。栗原さんは、そのモルタル造形で、200年以上経過したようなアンティークの美しさを持つ建造物を、本物そっくりに作り上げる特殊技法のスペシャリストです。

タイル施工会社の二代目としての顔を持つ栗原さんは、一般住宅のタイル工事の仕事から、モルタル造形作家へキャリアを広げ、現在では、テーマパーク、店舗、住宅、映画やTVCMのセットメイキングなど、幅広い業界のクライアントから依頼が殺到するモルタル造形作家さんです。

過去4人お呼びした中では唯一、僕がロゴやウェブサイトやパンフレットなどの制作を担当させていただいた「クライアント」という関係でもある方ですが、お互いにクリエーターとして独立したばかりの頃からのお付き合いで、世代も近いこともあり、今でも仲良くさせていただいています。

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これはフランスのプロヴァンスという場所の写真です。このような味わい深い壁や街並みは、雨や風や太陽、あるいは戦争などの傷も含めた歴史を経て、何百年もの時間をかけて創り上げられるものです。それを私たちは「アンティークな雰囲気で素敵!」と感じるわけです。このようなプロヴァンス特有の美しい風景を、栗原さんはモルタル造形という技術を使って、数日のうちに再現することができます。

こちらが栗原さんがモルタル造形で作られた作品です。

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日本は地震大国なので、レンガや石積みされた家や壁などをつくることは、建築工法として実はなかなか難しいことのようです。しかし、このモルタル造形なら、セメントと砂を混ぜた材料である「モルタル」で壁に2センチの厚みをつけることと塗装技術だけで、まるでレンガや重量のある石を積み上げたような壁、数百年の歳月を過ごしてきたような風景を短期間でつくり上げることができるそうです。


ブランディングの法則

ではさっそく、栗原さんのセルフブランディングについて紐解いていきましょう。僕が着目したポイントは3つあります。

  • (1)新マーケットの発掘(ブルーオーシャン)
  • (2)既存スキルの転用
  • (3)ビジネスの横展開

では、一つずつ解説していきましょう。

まず、モルタル造形はいまでこそアンティークな表現ができる技術として知られるようになっていますが、栗原さんがモルタル造形をはじめた当初は、ほとんど認知されていなかった。つまり、「モルタル造形でこんな壁をつくってください」と依頼するような人は皆無だったわけです。そこで栗原さんが取られた行動は、ガーデニングコンテストに出展することや、常に自分のポートフォリオを持ち歩いて人に見せるなどの地道な努力と、ウェブを活用した積極的な発信です。そして、今現在は、モルタル造形を手がける作家や施工者も増えています。その中で僕が特に見逃せないと感じているのは、他の人が手がけるモルタル造形と、栗原さんのモルタル造形は明らかに違うということ、圧倒的なクオリティの差です。

最近は、アンティークな内外装の店舗というものも流行していて、たとえば、みなさんも街を歩いていれば、パン屋やカフェや雑貨屋などで、アンティークな仕上げの壁を見かけることがあると思います。意識したことがない人はぜひ「これってモルタル造形かな?」と気にしながら街を歩いてみてください(笑)。 僕は、建築やモルタル造形については門外漢ですが、よく街で見かけるそれと、栗原さんの手がけられている作品は明らかに一線を画していると感じます。このことを裏付ける話があります。

モルタル造形作家・空間デザイナーの栗原規男さん
モルタル造形作家・空間デザイナーの栗原規男さん

栗原さんは「実は、僕はモルタル造形をやりたいのではない」とおっしゃっています。そもそも栗原さんは、ヨーロッパの歴史ある風景、特に「プロヴァンスの風景」を再現したいという強い想いがあり、それを実現させる手段としてモルタル造形を始めた。そこが、アンティークな仕上げだけを表層的につくっている他のモルタル造形とは、全く異なっている点だと僕は思っています。つまり、栗原さんは造形をしようとしているのではなく、プロヴァンスの美しい風景や歴史を再現するための「手段」としてモルタル造形を利用しているんだと思います。だから、「作られた感じ」「人工的でフェイクな感じ」が全くない。いやらしくないんですね。とても自然に溶け込んでいる。

栗原さんの言葉を借りるなら「造作にストーリーを挟み込められているか」。例えば、“この壁は雨や風が強くあたる場所だから、他の壁よりも漆喰がとけて、中にあるレンガが見えてきた”という物語を作り上げているんだと。この着目点とそれを形にする技術が、独自性や差異化を生んでいて、結果として新しい顧客を惹きつけ、ブルーオーシャンのような形が実現できているんだと思います。

二つ目は「既存スキルの転用」。

栗原さんのお父さんは栗原タイル工業という会社を営まれており、栗原さん自身がタイル職人としてのキャリアから始まっています。つまりタイルを貼るという仕事から、モルタルで壁をデザインする仕事に転じてはいますが、「壁に施工する技術」という視点から見ると、もともと強みだった「タイル貼り」の技術と経験を、今の職業、つまりモルタル造形にかなり生かされています。

少し僕の仕事のことをお話させていただきますと、僕は、デザイナーとして企業や商品のブランドづくりの仕事をしているのですが、最近は新規事業や新商品の企画から参画させていただくことも増えています。その中で実感していることは、新規事業が成功するためには、既存の強みやスキルを活かすことが重要だということです。分かりやすい例でいえば、BtoBのプロユースの商品を、BtoC向けにリデザインすることなどを企業とタッグを組んでやっています。ところが、新規事業をやろうとする会社で多いのが、自社の既存の強みに向き合うことなく、売れそうだからという理由だけで全くの異業種を手がけようとしてしまうこと。このような発想では、成功する確率はすごく低いと思います。

栗原さんは、その点で、工務店やハウスメーカーから仕事を請け負う「タイル職人」から、「モルタル造形作家」と転じたわけですが、市場はまったく別のところに参入しているものの、根底にある「壁の施工技術」という強みは、共通しています。これが、優位性にもつながっていて、栗原さん自身のブランディングを成功に導いているのだと思います。

最後の「ビジネスの横展開」。アーティストとしての感性が豊かで、素晴らしいものをつくられている栗原さんですが、意外と言っては失礼なんですけど(笑)、ビジネスセンスも兼ね備えていらっしゃいます。もともとは施工の請負という形でモルタル造形をやり始めたのですが、現在は、後進の育成としてワークショップをやられていたり、モルタル造形の施工方法を紹介するDVDを作って販売していらっしゃいます。またECサイトで、モルタル造形の材料である、セメント、塗料、コテなどを販売するなど、ビジネスを積極的に横展開されています。

このように、栗原さんは新マーケットの発掘、既存スキルの転用、ビジネスの横展開の3つの土台がきちんとあり、<差異化>と<価値訴求>というブランディングに重要な2つの要素がガチっとはまっていらっしゃる。ここにブランディングの成功のポイントがあると思いました。


ウェブの活用

栗原さんのウェブ活用
栗原さんのウェブ活用

では最後に、栗原さんのウェブ活用について見ていきましょう。少し特殊なパターンですが、「自社のコーポレートサイト」があり、「自社運営のECサイト」と「楽天市場/モール」を横展開しながら、それぞれ別にコンバージョンを取っているのが特徴です。「コーポレートサイト」では施工の受注をうけ、「ECサイト」では、ワークショップやDVDの販売をしていて、「モール」では施工のツールを販売しているんですね。

ビジネスとして全てに一貫した横軸を通しているウェブモデルの好例であると思います。

最後になりましたが、栗原さんとのトークセッションで強く感じたのは、モルタル造形への溢れんばかりの探求心と情熱でした。

本場プロヴァンスに足しげく通い、現地の壁補修の現場に突撃して一緒に仕事をさせてもらったり、モルタル造形を一般の方に知ってもらいたいという一心で「国際バラとガーデニングショウ」に出展し見事大賞を受賞されるなど、自分の手と足を使って技術や仕事の幅を広げていらっしゃる点に、僕自身も大変感銘を受けました。

スタイリスト綱島伸さんとのトークセッション

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「考える種を蒔く人」VOL.5の後半は、VOL.2でご登壇いただいた綱島さんに再びご登壇いただき、佐野とのトークセッションを繰り広げていただきました。

プロとしての仕事へのスタンスや仕事の究極のゴールに関する話題など、会場はうんうんという頷きと笑いが交差する時間となりました。

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佐野)では、本イベントのトリを飾っていただくのは、VOL.2でお越しいただいたスタイリストの綱島伸さんです。年末のお忙しい時期にも関わらずお越しいただけて、僕もとってもうれしいです。綱島さん、よろしくお願いいたします!

綱島伸以下綱)みなさん、こんばんは。よろしくお願いいたします!

佐)綱島さんは、ここからほど近いところにある「Terrace AOYAMA」でディレクターという立場でヘアスタイリストをやられていらっしゃいますが、単にサロンワークをしているだけではなく、日本全国津々浦々の美容院に赴き、若い美容師さんの技術指導をしたり店舗の活性化といった、美容業界の若手の道しるべになるような活動もされている。またスポーツ関係や音楽関係などの著名なお客様を担当されていて、本当に忙しくされています。僕もなかなか予約できなくて大変なんですけど(笑)。

他にも髪をカットするハサミの商品開発に携わったり、各種美容メーカーの商品開発にご意見番として参画されていたりと、美容業界周辺のコンサルティングを手広くやっているという(笑)。合っていますか?

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綱)だいたい合っています(笑)、前回と同様にみなさんに自己紹介させていただいてもいいでしょうか?

佐)そうですね(笑)、よろしくお願いいたします。

綱島)改めまして美容師の綱島です。一介の美容師ではありますが、いろいろな方との出会いの中で仕事をさせていただいているので、今日は1つでも2つでもヒントになる言葉や考え方、そして事例などをお伝えできればなぁと思いこちらに来ました。…が、佐野さんと打ち合せを一回もしていないので、お聞き苦しい点もあるかと思いますが、ライブ感覚でどうぞよろしくお願いいたします。

佐)すごい、ちゃんとしてる(笑)。

綱)当たり前じゃないですか(笑)。


お客様をブランディングするということ

佐)僕のヘアスタイルも基本的にはおまかせなんですけど、髪を切ってもらいながら仕事の話をさせていただいたり、お酒を飲みに行っていろいろ相談したりさせていただいています。

お客様は著名人をはじめ、経営者、会社員、公務員、クリエイターなど、ありとあらゆる職種の方が綱島さんの提案を求めて通われています。 「ヘアスタイル」という切り口ではありますが、お客様をブランディングするという観点で、僕がやっていることと共通しているところがあると思っています。綱島さんは、お客様の生き方やビジネスなどを、「ヘアスタイリスト」という立場からプロデュースされていると感じるのですが、そのあたりを教えてください。

綱)そうですね。実際に10数年担当させていただいている方を例にお話ししますね。

その方は芸能界で活躍されている方なのですが、以前テレビを少し騒がせてしまったことがあるんです。僕は10数年ご一緒しているので、その方の誠実な面はとてもよく知っています。なので、その騒動のあと、その方の誠実な人柄をテレビやメディアを通じて、どうやって視聴者の方に届けるか?といった点で、服装やコメントの出し方、表情の作り方などを戦略的に考えながらアドバイスさせていただいています。

ただ、このようなパーソナルブランディングのような関わり方は、別に頼まれてやりはじめたのではないんです。もともとその方へのヘアメイクから始まって、こちらからアイディアや言葉の提案をしたんですね。それがキッカケとなり、番組の前に打ち合わせをするようになり、そこからパーソナルブランディングへ発展したという…、いわゆる僕の「おせっかい」から始まったことなんです。頼まれてもいないことをやるっていうところが、僕にとっては、新規事業の始まりだったのかなと思います。

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佐)その部分、とても共感です…というか、とても大事な視点ですよね。

僕はウェブデザイナーからキャリアをスタートさせているんですが、たとえばお客さんから「ウェブサイトをつくりたい」とご依頼をいただいても、「今はウェブサイトをつくるのではなく、商品のコンセプトづくりからはじめましょう」ということもあります。まあ、おせっかいですよね(笑)。お客さんの言葉通りのオーダーに常に応えることがプロかというとそうではないと思っています。総合的に判断をして「やる」「やらない」を含めて提案できるのが、プロとしての力量だと思っています。

綱)そうですよね。結局、「目的は何なのか」を明確にするということだと思います。例えばお客様から「パーマをしてほしい」と言われても、お客様がどうなりたいかという目的が大事なのであって、実際には「パーマをしなくていい」ことも往々にしてあるんです。そのときはその理由をきちんとお伝えし、カットだけで求めているものを達成させることもあります。

佐)頼まれたこと以外のことをするとか、頼まれたことと違う提案をすることは、かなり勇気のいることだと思うのですが、その点はどうお考えですか?

綱)結局、技術にしても作業量にしても、そこに値付けがされるのが今のキャッシュフローのあり方だと思うのですが、それ以上に大切なのは、お客様の「目的」に対し、こちらがどう答えて、「そこまでするか」や「それ以上のことを得られた」といったサプライズや付加価値をどれだけお渡しできるのかという点だと思うんです。そして、そのサプライズや付加価値を提供することをどれだけ自分で楽しめているかというのが、仕事の醍醐味だなと思っています。

例えば「カットとカラーで●●円です」で終わりではなく、自分が関わって情報や技術を提供してヘアスタイルを変えたことで、「結婚できました」とか「仕事がうまくいきました」とか「出世しました」とかね(笑)。その方の人生が面白くなるということを提供したいなという想いを常に持ちながら仕事をさせていただいています。

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佐)とても共感します。そのお話と少し近いと思いますが、僕の場合は仕事上で「3つの満足」を得ることをいつも意識しています。 1つ目は顧客の満足、2つ目は自分自身の満足、3つ目は同業者から一目置かれる仕事ができているかという満足です。よく「お客様第一主義」というような話を聞くことがありますが、僕はそのような考えが強すぎると逆に、先ほど綱島さんがおっしゃっていた「目の前のキャッシュフロー」を拾うような仕事になってしまう恐れもあると思っています。そこで、特に2つ目の「自分自身の満足」はとても重要だと思っているんです。自分で1%でも「微妙だな」と感じる仕事は、正しい仕事ではないと思っていますし、その自分の満足とお客様の満足度が重なることがとても大切。そして、そのようなスタンスの丁寧な仕事なら、同業者にも一目置かれるものになると考えています。できているかできていないかはさておきですが、この3つが自分の仕事の評価軸です。


夢と足元

佐)綱島さんは広告費を一切かけず、口コミやお客様からのご紹介でお客様を獲得しているんですよね? 綱)はいそうです。もちろん、最初の頃は草の根運動から始めましたよ。ポスティングこそしませんでしたが、会う人全員に美容師をしているということを言って名刺を配っていました。どこで繋がりがあるか分からないですし、やっていることを自分で伝えていくことは、アナログだけどお金のかからないPRですからね。やらないと損なんですよ。

さ)そうなんですよね。今回のテーマは一応「ウェブ・セルフ・ブランディングの法則」と題しているのですが、これまでお呼びした4人の中で、こう言ってしまってはなんですけど、綱島さんが一番ウェブを活用されていないというか…(笑)。

綱)(他の3人の方の仕事やウェブの活用法を、佐野さんが解説しているのを聞いて)だから僕はもう一度、呼ばれたんだとわかって今日来たわけですけれども(笑)。ホームページも持っていませんし、唯一やっているというのはフェイスブックです。

佐)フェイスブックから予約につながることありますか?

綱)ありますあります、それでも許してくれますか?

佐)大丈夫です、大丈夫です(笑)。

綱)僕は「夢と足元」というカッコつけたお題目で全国各地で講演などさせていただいているのですが、こういうこと言うと失礼かもしれないのですが、コンテンツや広告やメガメディアって「夢」の話だと思っていて、お金をかけないでできる「足元」を見直したうえでウェブを活用するのはわかるのですが、そこを飛び越えてウェブをやりたい、ウェブさえあれば集客にたどり着けると思っている人が多いような気がします。僕からしたらウェブを活用する云々という前に、まずは挨拶をしっかりするとか、お客さんをしっかり覚えるとか、自分の強みは何なのかを言えるようにするなど、「足元」をまずは固めなさいと。

佐)とてもよくわかります。僕は「ブランディング」を主軸に置いたウェブ制作をしているのですが、ブランディングというと、よく「おしゃれ化計画」と思われる節があるんですよ。デザインをきれいに整えて見栄えを統一してイメージを良くしていきましょうという文脈ですね。一つの側面としてそういうのもあるとは思うのですが、結局外側からいい服を着せたところで、長続きしません。ブランディングもデザインも、たいして良くないものを良く見せるという技術ではないんですよ。 だから僕はよく「中からにじみ出るものをきちんとつくりましょうよ」という言い方をするんですけど、そのあたりは綱島さんと同じ視点だと思います。

綱)そうですよね。「足元」をわかった上で次にすべきことは「客観視」をすることなんです。そこができる人や企業が少ないからこそ、先ほど佐野さんがご紹介されていたブランドコンサルタントの守山さんのような、企業とデザイナーとの間に入ってコンサルティングをされる方が必要とされるんですね。 僕の仕事は、究極的には髪の毛を整えるのではなく、自信を持たせることなんです。「俺が切っているんだから大丈夫」と言い切って、最後はお客様に自信を持たせるんです。断っておきますが、僕はすごい人じゃないんですよ。ただ、僕を求めて来てくれている人は僕にお金を払ってくれるので、俺がやっているから大丈夫だと伝えて、自信をつけて帰っていただくというのが、僕の最終的な目的です。

佐)すごくわかります。それについていい話があって。いくつか今日キーワードを用意してきたんですけど(笑)。

つ)おお、打ち合わせなくても結構うまくかみ合いますね(笑)。

さ)僕、ゲストの4人に共通することをいくつか考えてきたんです。最初はこちら。

考える種を蒔く人v5好きなことと仕事に

僕もデザインやブランディングを考えるのが好きなのでこの仕事をしているんですけど、先ほど綱島さんは「髪を切ることが仕事ではなくて自信をつけてあげるのが仕事」だと言っていました。それって最初からそう思っていたんですか? もともとどうして美容師になられたんですか?

綱)一言でいえば、女の子にモテたかったからなんですよね。 僕は女の子にモテたくて、中学生の頃から野球を始めたんです。で、すごくもてるためには、地域で一番、東京で一番、日本で一番になろうと頑張って、甲子園に出るまで野球をやっていたんですよね。

さ)そうそう、こう見えても綱島さんは甲子園球児なんですよ(笑)。

つ)甲子園が終わって将来の進路を考えるときに、坊主頭ではたと考えたんですよね。で、「自分の好きなことで女の子にモテる仕事って何だろう」と。それではじめたのが、洋服のスタイリストです。そのスタイリスト時代にヘアメイクさんと知り合い、仕事の内容を教えてもらったんですけど、その人は、美容師という仕事はモテると言う(笑)。 「そんなにモテるんですか」と聞いたら、「何よりも目の前にいる人がタイムリーに喜んでくれる仕事だよ」って。これは、ヒットを打ったらお客様が喜んでくれる野球と同じだと思って「これだ!」と。 だからね、仕事をしていて壁にぶち当たった時に立ち戻るのが、「美容師を始めたきっかけ」なんですが、僕の場合は「女の子にモテたい、人にモテたい」なんです。そして立ち振る舞いや生き方含めて、多くの人に「モテる」ために必要なのがセルフブランディングなんだと気づきここまでやってきたわけです。わかります?伝わりますか?

会場のお客様)わかります!

綱)あ、ありがとうございます。

佐)共感一票ですね(笑)

綱)これこそイベントをライブでやっている醍醐味ですね(笑)

佐)では次のスライドですが、これについて綱島さんにも聞いてみたかったんです。

考える種を蒔く人v5.DIYの時代

さ)ここまでゲストでお呼びした皆さんは、自分たちの仕事を自分たちでつくり、自分たちで発信している(Do It Yourself)というのが共有しているテーマなんですね。

Windows95が発売されたのは1995年なので、インターネットが世界に普及してまだ20年やそこらなんです。でもですね、僕は「世界は一変した」と考えています。僕自身、インターネットの登場で「これで世界が全部変わるぞ!」と衝撃を受けた一人です。

“おじさん達”が分からないインターネットという技術で、僕たちの時代を全部塗り替えてやるんだって、ものすごくドキドキしました。めちゃくちゃ面白くて、勉強して、気が付いたらそれが仕事になっていたという感じです。それ以前は広告を出さないと知ってもらえない時代でしたが、今はやり方は無限にある。それは何故かというと、インターネットがあるからなんですよね。

まさに僕ら団塊ジュニアの世代がインターネットの第一世代として、世の中のルールを変えている、というのが僕のビジネス上のアイデンティティなんです。やる気さえあればDIYですべてできるんですよ、別にお金なんてかからないんですよね、本当は。 「考える種を蒔く人」のゲストの4名は、自分の仕事を「DIY」で世の中に知らしめて、お金をきちんと稼いでいて、そういうのがとても勇気づけられました。

そして自分で自分のお客様を見つけて、自分で素晴らしい仕事を作っている人の方が、これからの時代を創る人になる「カッコイイ生き方」だと実感しています。たとえばデザイナーは、大きな代理店から大きな仕事をもらって、それをやって雑誌にバーンと載って有名になりたい、という感覚はもう古くてダサいと思います。すでにそういうスタンスの仕事は頭打ちだし、世の中のニーズからは遠ざかっている。だから、既存の有名デザイナーとか、大手の仕事をやりたいとか、僕はあまり目指さない方がいいと思ってます。

綱)全く同感ですね。一番大事なのは自分や一番やりたいことをアウトプットするということ。要は依頼されるのを待つのではなく、自分のアイディアや考えを発信して、人との繋がりの中で仕事をしていくということだと思います。 だから「自分はこれからこんなことをやりたいんだよ」と発信すれば、それにリンクしてくることが増えてきて、イノベーションが生まれるんじゃなでしょうか。今日ここに来ている方々も、何らかの共通点がある思うんですよね。大きな枠組みだと「男同士」とか「同世代」とか「お客さんにこういうことを喜んでもらうということがコンセプトで仕事をしています」とかね。 そうやって共通点を広げていき、面白いことをどんどんやっていきたいですよね。

佐)そうですよね!僕も独立して仕事をいただく機会が増えるにつれ、人とのご縁の大きさを改めて知りましたし、ある種それだけでやってきたといっても過言ではないですし。

綱)佐野さんって最初からそうですよね。

佐)非常に興味深い話が続いていて、永遠に続いてしまいそうなんですけど(笑)。 今日、この言葉を今回のイベントの締めにしたい思っていたんです。

考える種を蒔く人v5.技術と人間性

佐)僕には兄がいまして、年に1~2回、父親と僕ら兄弟の3人で飯を食うことがあるんですけど、その中で親父がぼそっと言っていた言葉で印象的なものがあるんです。「技術と人間性があれば生きていけるんだ」と。それは深い言葉だなと思って。 ゲストにいらしていただいた4名の方は全員、「技術」と「人間性」の両方を持っていると感じています。例えば、綱島さんが髪を切る技術がなくて下手だったら、誰も寄ってこないと思うんですよね。まず、美容師としての技術が根底にしっかりとしている。そして、関わる人たちが綱島さんの人間性なり人間力に何らかの愛情なりシンパシーを感じることで仕事は成立しているし、次の仕事を生むんだと思います。

綱)そうですね。そのどちらが欠けてもだめですよね。

佐)人間力と言えばいつも思い浮かべるのが、綱島さんの仕事の最終ゴールの話です。綱島さんにとって仕事の最終ゴールは「お客様のお葬式にでること」だと。

綱)そうですね。今まで4名の方のお葬式に参列させていただきました。 やっぱり、どんな雑誌に出たということよりも、僕が一番自慢できるのは、4人のお客様のお葬式に参列させていただいたということです。 要は、美容師という仕事を通じて、その人の生活や人生に携わらせていただいたんです。美容師というのはそういう仕事なんだよ、というのを若い人たちに伝えたいですし、どこそこの芸能人のヘアスタイルを担当したとか、あの雑誌の表紙を飾ったよというよりも、お客様の人生そのものに関われるという方がすごいなと僕は思うんですよね。

佐)そうですよね…。僕は綱島さんよりも先に死にたくないなと思っています(笑)

会場)笑。

佐)僕、一応綱島さんより一学年下ですし(笑)。

綱)出れたらでますよ、佐野さんのお葬式(笑)。

佐)僕も出ますよ、綱島さんのお葬式(笑)。 おあとがよろしいようで(笑)、これにて「考える種を蒔く人」VOL.5をこれにて閉幕にしたいと思います。 綱島さん、お越しいただいたみなさん、どうもありがとうございました!

Special thanks

 

この記事を書いた人

杉山久美子

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