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ブランドコンサルタントが伝えるデザインのセカンドオピニオン「考える種を蒔く人」vol.3

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■TURN harajukuにて開催しているトークイベント「考える種を蒔く人」は、「デザイン(Design)」の意味を広く捉え、新しいビジネスを生み出している方をお招きしているイベントです。第3回目のゲストは、ブランドコンサルタントの守山菜穂子さん。

前職から今まで、国内外約1,000社の企業と、ブランディング・ビジュアル構築のプロジェクトを行ってきた守山さん。デザイナーと企業の間に入り、中立的なポジションで、ブランディングを正しい方向へ導くという「ブランドコンサルタント」という職能について、聞き手の佐野彰彦(それからデザイン 代表取締役)が深く迫る2時間となりました。

今回は、佐野の旧知の友人でもあるBeeミュージックスクール代表の 鮄川(いながわ)拓也さんがDJを担当。心地よくもカッコイイ音楽が会場を満たし、刺激的なセッションを盛り上げてくれました。では早速その様子をお伝えします!(Report:杉山久美子@広報)

 

ブランドコンサルタントについて

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佐野(それからデザイン代表=以下佐)守山さんとの出会いは、2015年に出版した私の本「経営者のためのウェブブランディングの教科書(幻冬舎刊)」を読んでくださっていたことがきっかけで、その書評を守山さんがTwitterで書いてくれていたのを僕が見つけて・・・という。

守山(以下守)お会いしたことがない佐野さんから、突然「感想ありがとうございます」というリプライがついて、びっくり(笑)。

佐)そこで僕が、守山さんの「ブランドコンサルタント」という活動に興味を持って、守山さんのセミナーに参加させていただいてから、実際の交流が生まれました。
先日、守山さんのブログに「デザインの『セカンドオピニオン』を求められる」という記事が投稿されていて、それがとっても面白かったんです。そこでこの「デザインのセカンドオピニオン」をテーマに、守山さんのお話を聞いてみようと思い、今回お誘いさせていただきました。本日はよろしくお願いします!
そして、今日はプライベートで仲良くさせてもらっているBeeミュージックスクール 代表の?川さんにDJをしていただきながら、トークセッションを進めていこうと思います。

守)私の場合、静かなセミナーが多いので、このような音楽がかかっている中でのトークセッションって新鮮です! どうぞよろしくお願いします!

佐)さて、早速ですが、ブランドコンサルタントという守山さんの職業について教えてください。

守)はい。私がしている仕事は大きく分けて2種類あります。1つ目は、規模は大小様々ですが、商品・サービスのブランディングをしていく「企業ブランディング」のお仕事。2つ目は個人の方をブランディングする「パーソナルブランディング」です。また、このようなイベントやセミナーでの講演も多数あります。

佐)企業のクライアントにはどんな業種の方が多いのですか?

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守)本当に様々なんですけど、コーヒー飲料のメーカー、医療福祉系、税理士法人、ネイルサロンさん。過去には学校とか、ウェブメディア企業や、金属の型抜き加工をしている会社さんなどもありました。

佐)個人の方だとどのような業種の方が多いですか?

守)私はクリエイターの方と仕事をするのが好きで「クリエイターの方のパーソナルブランディング」と銘打っていることもあり、ファッションデザイナー、ミュージシャン、小説家、テレビに文化人として出演されている方など、クリエイティブな職種の方が多いです。それから「会社が年俸制なので、組織の中でエッジを立てていきたい」という会社員のお客様も多いですね。その他には、政治家、士業の方、学者さんなどもいらっしゃいます。

佐)え? 学者さんにもブランディグが必要なんですか?

守)学者さんは、「いい発信をしないといい仕事が来ない」という時代のようで、自分の研究一筋だけでは出世できないようなんですよね。今の学者さんはすごいですよ。自分のサイトを作ってご自身のお写真を載せて…。

佐)本当に多種多様ですね。では、そのキャリアについてグッと踏み込んで行きますね。僕は「ブランドコンサルタント」という職種は、守山さんと知り合ってから知ったのですが、今日お越しのみなさんも、あまり聞き馴染みがないと思います。この職種を名乗る人は、どのくらいいらっしゃるのですか?

守)私の所属しているブランドマネージャー認定協会に、トレーナーが40名ほど在籍していますが、その中で「ブランドコンサルタント」と名乗っていらっしゃる方は20名ほどですね。それ以外だと、グラフィックデザインをしながらブランドデザイナーを名乗っている方もお見かけします。東京でもまだ数少ない職種だと思います。

佐)なるほど。守山さんは多摩美術大学を卒業されたそうですが、現在の仕事をされるに至った経緯を教えていただけますか?

守)多摩美では広告のデザインを学んでいました。ちょうど1つ上の学年には蜷川(にながわ)実花さん(写真家)や佐野研二郎さん(アートディレクター)がいました。デザイナーになりたくて美大に入ったのですが、デザイナーとしてプロになろうと切磋琢磨しているすごい人たちをたくさん見て、「あ、この人たちと同じ土俵で戦うのはちょっとムリかも!」と考えるようになったんです(笑)。

広告の仕事はしたかったので、広告代理店である読売広告社の営業職に就職しました。その後は小学館の広告局でファッション雑誌などの広告に関するお仕事を10年間させてもらい、2010年にデジタル事業局という部署が立ち上がったタイミングで異動。電子書籍やデジタルコンテンツなどの開発を行った後、2014年1月に円満退職して、起業しました。

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佐)守山さんと話していると、出版系のご出身なのに、ウェブやデジタルマーケティングのことに詳しいなと思うことが多かったのですが、それは小学館のデジタル事業局で経験されたことが生かされているのでしょうか?

守)そうですね、大きいと思います。小学館デジタル事業局の在籍時に、ウェブについてはかなり勉強しました。
出版社は今でも紙媒体が主流なので、「紙のにおいが好き~」「紙、最高!」という方が多いのですが、異動した部署は社内でもかなり異色で「紙禁止令」が出ていました。社内で「これから、紙はなくなりますよ!次のデジタル時代を見据えていかないとだめですよ」と声をあげて、煙たがられる役回りでした (笑)。
「新聞を取らずして、新聞を取ったと同じだけの情報量が得られるか」を試したり、紙の本を一切買わずに電子書籍だけを買っていた時期もありました。またSNSにも積極的に取り組んでいたので、デジタルについてはかなり鍛えられましたね。

佐)そこから独立に至ったキッカケはなんだったのでしょうか?

守)大きなキッカケは東日本大震災ですね。人を喜ばせるのが好きでメディアの仕事をしていたのに、震災直後の辛い時期、エンタメ系のコンテンツが役に立たなかったのを見て、自分の仕事が何のためにあるのか良く分からなくなってしまった。「雑誌は、生活必需品じゃないのかな」「ガソリンを大量に消費して、本を全国に配送することって、これからも意味があるのかな」と、当たり前のことにいちいち疑問を感じるようになってしまったのです。また紙という媒体は600年ほどの歴史があるものなのですが、デジタルの普及によりその存在自体が変容してきて、それに伴い出版業界自体がゆっくりじわじわと右肩下がりになっていた。そこで、自分にとって、紙媒体やエンタメに代わるものってなんだろうと考えるようになったんです。

ちょうどそのころ、障がいや難病の女性のためのフリーペーパー「Co-CoLife女子部」で編集ボランティアをすることになり、今までは知り合うことがなかった障がいや難病の人、そしてその方々をサポートする人に出会うことができたんです。フリーペーパーを編集する中で、「この写真はいいですね」とか、「その話、素敵だからブログを書いてみたらどうですか?」などと人に気軽にアドバイスをしていたら、「こんなことアドバイスをしてくれる人は福祉業界にはいなかった!」と言われたんですよ。

佐)マスコミに身を置く守山さんとしては、何も新しいことをやったわけではなかったのに、それが意外にも必要とされたんですね。

守)そうなんです。自分で普通だと思っていることでも、誰かに伝えることで役に立てるんだなという気づきがあったんです。誰が買ってくれるかわからないという不安を抱きながら書籍や雑誌を作るよりは、今、自分が持っているノウハウをお伝えすることで、具体的に誰かのお役に立てるのであれば、そういう仕事も素敵だなと思い独立しました。
あ、でもひとつ言っておくと、小学館はとてもいい会社ですよ、ほんとに。人も誠実だし、ものづくりという点でもしっかりしていて…今でも大好きな会社ですし、独立してからも小学館からお仕事いただいたりしています。

 

正しいオリエンがあれば、
必ず正しいデザインができてくる

 

佐)守山さんのブログに、「デザインのセカンドオピニオンを求められる」という記事がありまして。今回のトークイベントのテーマにしたわけなんですけど、そこにはこんなことが書かれています。その記事の一部をご紹介します。

 

さて、私がブランドコンサルタントの仕事をしている中でクライアント(企業のブランディング・広報担当者)から、デザインの「セカンドオピニオン」を求められることが非常に良くあります。

「このパンフレット、どう思います? 」
「デザイン会社との契約内容と、金額。」
「客観的に見て、どうですか?」

WEBを全部イチから作り直したいのだが、どう思う?このような質問を、日々、いただいています。
中には、こんな質問も。

「このデザイナーを、信じていいと思います?」

私は基本的に、クリエイターの味方です。また、デザインは問題解決の手法であり「正しいオリエンがあれば、必ず正しいデザインができてくる」と信じています。

(引用:守山菜穂子 | Mint Days─『デザインの「セカンドオピニオン」を求められる』)

 

「このデザイナーを、信じていいか?」というのは、ちょっと強烈ですね。僕もデザイナーなので怖いなぁと思いますが(笑)、それに対して、守山さんは、「思い通りのデザインが上がってこないのは、オリエンが悪いからです」と言ってらっしゃる。
そのあたりのもうすこし具体的なエピソードを教えてください。

守)私は依頼者側がしっかりとした発注をすれば、そうそう間違ったデザインにはならないと考えてます。ですので、上記のようなことを言うクライアントにはお説教することがあります(笑)。「オリエン時にこちらの希望がしっかり伝わっていたら、そうはならなかったと思いますよ」と。

佐)僕も、その話にはすごく共感しますね。でも、デザイナーから「発注の仕方が悪い」とはなかなか言えない(笑)。そのようなコミュニケーションを取ることができるのは、守山さんがデザイナーではなく、「ブランドコンサルタント」という中立的な立場だからだと想像します。クライアントとは具体的にどんなやりとりがあるのですか?

守)まずは「もっとブランド力を上げたい」とご依頼をいただくことが多いですね。そこで現状のウェブサイトやパンフレットを見せてもらうと「このパンフレット、どうでしょうか?」と聞かれるんです。 私は「きれいなパンフレットだと思いますが、御社の魅力や技術が今一歩、表現しきれていませんね」など、率直な感想をお伝えします。そうすると「そうですよね~。このパンフレットは今いちインパクトがないと思っていたんですよね」とか「デザイナーの○○がいる会社に頼んだんだけど、デザイン料が高いだけであまり納得いくものが作れなかったんだよね」などとおっしゃるんですね。

しかし、どうやってご依頼したのかを聞くと、「デザイナーにお任せしたんです」と。そういう流れであれば、「お任せ」したこちら側が悪いですよね。どういうビジュアルにしたくて、お客様に何を伝えたいのかをきっちりデザイナーに伝えていたら、もっといいものが上がってきたはずだと私は思うんです。「お任せ」にした時点で、自分たちの言葉が足りなかったのです。 そして、クライアントには「自分たちの言葉を作りましょう」、「デザイナー任せにしないで、自分の言葉で自社の魅力を伝える力をつけていきましょう」とお伝えし、コンサルティングをスタートさせています。

佐)なるほどなるほど。

守)企業のブランドマネージャーの立場にいる方は、自分たちの商品の特徴を言語化して、正確に話せないといけないと思っています。「お任せ」なんて言ってしまうと、デザイナーはデザイナーで工夫して仕上げてくるので、デザインができた段階で、クライアントが意図しなかったデザインになっている場合がある。その段階でやっと「何か違うぞ」と。

佐)そうなってしまうとお互いに不幸ですよね。

守)そうなんですよ。私は基本的にクリエイターの味方です。「正しいオリエンがあれば、必ず正しいデザインができてくる」と信じているので、正しいオリエンができるように、クライアント側にアドバイスをさせてもらっています。

 

もやもやしたイメージを言語化する

佐)守山さんは、多種多様なクライアントから依頼を受けているとのことですが、多業種に渡るクライアントに対して、共通して必ずやっていることはありますか?

守)どのクライアントにも、色・カタチ・フォントの大きさなどをはじめとしたデザインを言語化して伝えることを必ずやっています。
例えば、とあるクライアントさんのウェブサイトが、きみどり色で統一されていた。その時に「このきみどりは御社が決めたのですか?」と聞くと「いや、デザイナーさんから提案された。この色でいいでしょうか?」とおっしゃる。そこで私は、「きみどりやみどり系統の色は、学校や教育現場をイメージさせる色なので、知性を感じさせる色です。今回はそのみどりの中でも、若草色に近い明るいきみどりなので、フレッシュ感やすがすがしさを感じさせます。それは御社が取り組まれているビジネスの方向性と合っているので、色の選択としては間違っていないと思いますよ」と具体的に色について説明します。ここまで説明して初めて「ああ、きみどりでよかったんですね」と安心してくださる。
またターゲットの設定についても「30代女性」といったようにかなり曖昧な方が多いので、具体的に言語化して、どんな人物像で、何が好みなのか、「ペルソナ(ターゲット像をイメージ化したもの)」を徹底的に作ります。各ポイントで「なんとなく」をはっきりさせるようにしているんですね。

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佐)日本には昔からコンサルティング会社があり、デザイン会社もあるのですが、両社の間がうまく接着できていないと感じる時があります。コンサルとデザインとの間の話って、昨今とても重要になってきているように思うのですが、そのあたりどう思いますか?

守)「企業 対 デザイナー」という今までの図式に対して、私の場合は「企業のブレーン」として、会社の内側に入り、デザイナーとは同じ立場にはならず、企業の思いをデザイナーへの橋渡しする手助けをしています。

佐)それは、先ほどからおっしゃっている「デザイナーの味方」になる―ということになるのですよね?

守山)そうです! せっかくお金をかけてデザイナーに依頼をしているんだから、無駄なやり取りを繰り返すのではお互いに疲弊するだけです。そうならないように「いいオリエンをすることで確実なデザインが上がってきますよ」と会社の内側の、社長の横でささやいています(笑)。

佐)僕は、デザインは企業や事業の「課題解決の手段」だと捉えています。ですので、日頃は守山さんと同じように企業を客観的に見て、デザインのプレゼンテーションすることをやっています。ただ一方で、僕はデザイナーだから「手塩にかけて作った作品」という想いもやっぱりあり、100%の客観視が難しい面もあります。プレゼンも「企業に自分の頑張ったデザインを一生懸命プレゼンする」という要素はなくならないわけです。デザイナーという職業は、常にそのジレンマと隣合わせなんですよね。
そこで、もうひとつ聞きたいと思ったのが、守山さんとデザインの距離感についてです。大学でデザインを専攻されていたから、そういう場面で「私もデザインしたい」と、うずうずしたりしませんか?

守)たまにラフを描いてしまうことはありますね(笑) でも基本的に「自分ではつくらない」というのが私のブランドコンサルタントとしてのスタンスですので、最終的な着地はデザイナーさんに依頼するようにしています。

 

優秀なデザイナーの条件

佐)デザイナーにもいろいろなタイプがいると思います。グラフィック力に長(た)けた、「とにかく美しく作ることにこだわる人」もいますし、デザインしたものが「ビジネスの成果にどれだけコミットできるか」にこだわるデザイナーもいます。いろいろなデザイナーと仕事をされていると思いますが、現在のデザイナーに対してどのように感じていらっしゃいますか?

守)そうですね、いいデザインを作れるのに、それを説明するのが上手ではないデザイナーさんが多いな、とは感じます。選択した色ひとつとっても、その色の社会的な意義や、クライアントが目指す方向性などを含めて、きちんと言葉に落として説明することで意味が出てくると思うのですが、残念な方は「御社に合っていると思うんで」と一言で終わらせてしまっている。それだけでは「企業側としてはお金を払えないよ」という場面が多いですね。 私が入る時は「デザイナーさんはこういう意図だと思いますよ」との代わりに説明してさしあげるのですが、デザイナーさんが同席されて横で深くうなずいていたりして。その関係は嬉しいですね(笑)。 あとは、正当なフィー(デザイン代)の請求ができていないデザイナーさんも多いですね。先日もあるデザイナーに「これ、デザイン料があまりに安過ぎませんか?」と聞いたら、「クライアントさんが、これしか出せないからと言うんです…」。いやいや、だめですよ、そういう姿勢では。「いいものを作っているんだから、自信をもってフィーを請求しましょう!」「デザインの価値をきちんとクライアントと話し合いましょう」とお伝えすることもあります。

佐)そのあたりの対応力は、「ノウハウ」だけではない、守山さんの「人間力」によるところであるとも思いますが。

守)「愛」かもしれないですね(笑)。結局、私はデザイナーなどのクリエイターが好きなので、能力を生かしてほしいという気持ちが根底にあるんです。
だからこそ、もっとデザイン以外のことにも目を向けてほしいんです。「デザインを見りゃ分かるだろう」というのは、ちょっと傲慢(ごうまん)だし、冷たいですよね。クライアントは困っているのだから、「このデザインはこういう意図です」と、できるだけ丁寧に言語化して欲しいです。
システムエンジニアの方なども一緒ですよね。専門用語をバンバンを使って説明するとか、ちょっと冷たいですよね。そういう時は、私がとぼけて「これって何ですか?」「わからないので、詳しく教えてください」とか聞いて、クライアントがなかなか聞けない初歩的なことも、言語化してもらうようにしています。技術を持っている人は、それを言語化することをサボってはいけないと思うんですよね。説明しないと伝わらないですから。

 

企業に求められること、デザイナーに求められること

■休憩をはさんだ後半は、守山さんが所属している「一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会」についてや、ブランディングとマーケティングの違いについて話が進んでいきました。
中でも、「企業に求められること、デザイナーに求められること」についてのテーマは、明日から実践できる具体的な内容ばかりで、参加していたみなさんのメモを取る手も忙しく動いていたのが印象的でした。

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佐)いいデザインを生み出していくために、企業とデザイナーに求められることはそれぞれ異なってくると思いますが、どんなことが必要でしょうか?

守)企業は、商売をする上での「社会的な意義」、扱っている商品・サービスの魅力について、自分達の言葉で語れることが、今後ますます求められると思います。
バブル以降は、「作れば売れる」、「安くしたら売れるでしょ」という時代で、自分たちの言葉できちんと商品を語ることサボってしまった企業が多いように感じます。しかし、今はモノがあふれている時代なんですよね。「たくさんのモノを買うのはカッコ悪い」という価値観の世代が増え、非常に難しい時代です。企業は「なぜこの製品を作っているのか?」「お客様のために、この製品を通して、どんな価値を提供できるのか?」をきちんと自分たちの言葉で説明できないと、商売そのものができない時代になってきたと感じています。
ちょっとクサいセリフなのですが、「御社は、何のために、誰のために商売をしているんですか?」と必ず聞くようにしているんですよ。

佐)「売上を上げることがゴール」から、もう一歩踏み込んで「本当にそこがゴールでいいんですか?」を問いかけるということですね。

守)そうなんです。「社会をよくするために企業は存在する」ということを、今一度、噛みしめてもらいたくて…。これは、私自身の会社員時代の仕事への姿勢に対する、反省でもあるんですけどね(笑)。自分も、ただ売上だけを目標にやっていた時期がありましたから。

佐)では、デザイナーに求められることは何でしょうか?

守)言葉を尽くす努力ですね。最近「●●デザイナー」と名乗る人が増えてきました。またフォトショップやイラストレータだけでなく、簡単なアプリなどの機能も非常に発達しているので、うまく使いこなせれば誰でも「それなりに素敵な」デザインができるようになりました。つまり「作れるだけ」では勝負できなくなってきた。その中で、勝ち抜いて、お客様に選ばれ続ける存在であるためには「言葉を尽くす努力」が必要になってくると思います。

佐)それは「プレゼン能力」と言い換えることもできますね。デザインを作るだけでなく、自分で作ったデザインを「自分の言葉で伝えるところまでがデザイン」なのだと、僕も感じます。 ところで、守山さんも自身のブランディングをされていると思うのですが、具体的にどのようにされているのか教えてください。

守)はい…。あの、最初に断っておくと、自分のブランディングをするのは、世界で一番、難しいですよね。

佐)そうですよね! 僕たちも人さまの企業に対して「ブランディング、ブランディング」と言っていますが、自社のブランディングが一番、後回しになっています(笑)。

守)そうなんですよ。なので、仕事柄、ここは歯を食いしばってやり遂げないといけないなと、肝に銘じています(笑)。「紺屋(こうや)の白袴」「医者の不養生」になってはいけないと。

佐)今は、会社の看板があまり意味を持たなくなっていて、「その人がどういう人なのか」というところで、物事が判断される時代だと思います。だからこそ、「個人のブランディング」って、より一層、注目されると思っています。

守)そうなんです。私自身のブランディングについては、2つ決めていることがあります。1つは「ブランディングの専門家」であることを徹底的に感じさせる。もう1つは「マスコミ」や「ファッション業界」、「クリエイティブ業界」といった、トレンドやキレイなものを大切にする業界から、一番に選ばれる人でありたい、ということです。例えば、フェイスブックやブログに書く内容、セミナーの資料、そして発言などすべてにおいて、この2軸が実現できているかは、常に意識しながらやっています。

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佐)「専門家×クリエイティブ業界」のように、掛け合わせて倍倍にしていくというイメージ、とても共感します。今のご時世、どれか1つだけで「No.1」!と飛び出るのは、なかなか難しいですよね。例えば僕らの業界では、様々なデザイナーが「ブランディング」を売っています。そこはすでにレッドオーシャンですよね。

しかし僕の会社は、デザインだけでなくウェブマーケティングにも強みがあるので、「経営的な視点で成果に直結するウェブ・ブランディング」を提案できる。つまり、ブランディングに、ウェブやマーケティングという視点を掛け合わせてやることで、ブルーオーシャンで戦えるようになるんです。

守)素晴らしいですね。あと、佐野さん、もうひとつ掛け合わせる、3つ掛けるというやり方も面白いんですよ。例えば「ウェブ×ブランディング×原宿」、とかね。

佐)なるほど!

守)2つの掛け合わせだとまだ競合が多い場合、3つ掛け合わせるとかなりの確率でNo.1になれますよ! と、よくお伝えしているんです。私の場合は、「マスコミ業界×デザイン学校出身×ブランディング」ですね。

佐)では最後に…守山さんにとって「ブランディング」とは、なんでしょうか?

守)「誇り」を作ることです。自分の会社がやっていることに誇りを持って欲しい。自分のビジネスに誇りをもって、お客様にまっすぐ伝えることができたら、それは素晴らしいブランディングになります。 もし、自分たちの会社が、何に誇りを持っているかわからなくなっていたら、そこから一緒に「誇りを探していきましょう」、そう思っています。

佐)僕も改めて「誇り」について考えてみようと思います。今日はとても興味深いお話をありがとうございました!守山さんに拍手を★

守)ありがとうございます!みなさん、今日は非常にマニアックな話が多かったのですが、わかりづらいところはなかったですか?大丈夫でしょうか。

お客様)満足げに深くうなずいている

佐)めちゃくちゃ面白かったですよ!

守)私もめちゃくちゃ面白かったです! 改めて、本日はありがとうございました。

 

■企業とクリエイターとの間で、双方の想いを常に言語化し、質の高い結果を生み出し続けている守山さん。今後は大学生、専門学校生などクリエイティブなことを学んでいる学生さんに、「自分の作品の対価をきちんと受け取る方法」や「自分のクリエイティビティで独立していく方法」などを教えていきたいとも考えているそうです。
この先、個人としても社会的にも「自立」できているクリエイターがより増えることで、日本のクリエイティブ力も底上げされ、日本がもっと素敵になっていきそうだなと感じました。デザインの力、そしてブランディングの力の新たな1ページが刻まれた「考える種を蒔く人」となりました。守山さん、ありがとうございました!

Special thanks

  

この記事を書いた人

杉山久美子

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