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「育児は仕事の役に立つ」 ―ワンオペ育児からチーム育児へ―

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はっと我に返り、パソコンから時計へ目を移すと、子供の保育園のお迎えに間に合う電車の発車時刻まで残り5分…。あと少しで一区切りつく仕事にギュっと目をつぶり、携帯をカバンに投げ込み、会社を飛び出し電車に飛び乗る。

車内では、明日の仕事の優先順位を確認しながらも、子どもの夜ごはん、寝かしつけまでをいかにスムーズにできるかをイメトレし、電車から降りたら足早に保育園へ向かう―。育児をしながら仕事をされている方ならではの「日常の風景」ではないでしょうか?

かくいう私も2歳になるちびっこギャング(!)を育てながらの毎日、職場や家庭、そして地域の皆さんに助けてもらいながら、分刻みのスケジュールで動いている日々です。

最近は、「もっと仕事をしていたいのに物理的にできない」「みんなが頑張って仕事をしている中、先に帰らせてもらって申し訳ない」というモヤモヤを抱えてしまうこともあったのですが、本書を読み進めるうちに、「育児か仕事か?」ではなく、「育児も仕事も欲張っていいのではないか」という気持ちが強くなりました。

それを達成するためには、今日から何をすればいいのかが具体的にわかったことで、爽快感すら感じました。

育児と仕事を取り巻く既成概念への〝ちゃぶ台返し″

一般的に育児は「仕事」の対極にあるもののように語られますが、本書では、「仕事」と「育児」はポジティブな相乗効果をもたらす(=ワーク・ファミリー・エンリッチメント)という視座をとっています。

「一見仕事とは無縁と思われる育児経験が、ビジネスパーソンの業務能力発達につながっていること」へ学術的に迫り、「ワーク」と「ファミリー」の二項対立という支配的なものの見方に、“ちゃぶ台をひっくり返す”構成になっています。

著者は、独自の視点と観察眼にユーモアを掛け合わせ「企業内の人材育成」について研究している中原淳氏(東京大学大学総合教育研究センター准教授)と中原氏の研究室に在籍していた浜屋祐子氏の両名。互いの泣き笑い混じった育児経験をふんだんに盛り込み、突っ込み合い、そして時には自省しながら、育児や働き方の変化や今後の見通しや「チーム育児」と仕事へのよい効果、そして「チーム育児」を促進・実行するための具体的なモデルを6章構成でテンポよく論じていきます。学術的な内容も理解しやすいように、全編が対話形式で構成されており、時間に追われる身でも難なくサクサク読めるのも嬉しいところです。

子育て期は、キャリアの中断期ではない

さて、題名にもなっており、仕事、特にリーダーシップやマネジメント的役割にプラスの影響をもたらすという「チーム育児」とは一体何なのでしょうか?

中原氏は文中でチーム育児を「夫婦を中心とするチームで取り組む育児」であり、「夫婦がそれぞれお互いに連絡を取り合い、相互の仕事や役割を調整し、家庭外の支援者との連携を行いながら実行する育児」と定義します。

なるほど、「夫婦」「家庭」という文字を取ると、そこには、職場のプロジェクトの遂行や組織マネジメントを語るときにも通じるワードが並んできますね。

そして「共働きの育児というものを、ひとりだけで頑張る『ワンオペ育児』ではなく、協働的かつプロジェクト的な『チーム育児』として捉えてみれば、共働き育児はリーダーシップ行動となり、実は仕事とやっていることとたいして変わらないことになる」と語り、その根拠となる研究結果が展開されていきます。

〈そうなんだ…実家の祖父母や保育園の先生、そして夫と共に四苦八苦しながらも娘を育てている時間は、ややもすると社会と隔絶された時間と捉えがちだったけど、仕事、そして社会と繋がっていると考えていいんだ!〉

読み進めていくうちに、肩に入っていた余計な力や引け目を感じていた気持ちが解けていき、ポンと背中を優しく押してくれているように感じました。

本書の後半では、「ワンオペ育児」から「チーム育児」への転換をするためのシンプルな3ステップが提案されているので、「読んで終わり」ではなく「今日からやってみよう」という気持ちに火が付くこと必至です。

我ながらびっくりするほどのドックイヤーができていた本書。育児も仕事もいい連動が生まれることを目指し、まずは、「チーム育児」の主要メンバーである家人に、この本を読んでもらうことから始めたいと思います。

「育児は仕事の役に立つ」 ―ワンオペ育児からチーム育児へ― 
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「育児は仕事の役に立つ」 ―ワンオペ育児からチーム育児へ―  浜屋祐子 中原淳著 光文社新書 2017年3月

この記事を書いた人

杉山久美子

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