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女子に人気の「mt」についてブランディングの視点から考えてみた

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主に女子に人気の「mt」。みなさんご存知でしょうか?

「mt」は、色や模様など多種多様なデザインが楽しい、幅1センチほどのテープです。もともと工業用のマスキングテープから発案されたことから、社内で使われていた「mt」という呼び名がそのまま商品名になったそう。簡単にはがせる手軽さで、写真や手紙や文房具に貼ったり友人へのプレゼントのちょっとした飾りにするなど、さまざまな用途に用いることができるおしゃれアイテムです。

かわいいもの好きにはたまらない見た目と、数百円というお手頃な価格のため、使う目的はとくにないけれどかわいくて安かったからついカゴに入れてしまったという女子も多いのではないでしょうか。私はそうして購入してしまいました。

今回はこの「mt」について、ブランディングを考えるで紹介した「企業のブランディングフロー」そして「消費者がブランドを認知するフロー」にできるだけ沿いながら考えてみました。

企業のブランディングフロー 1. ターゲットの設定 2. ブランドアイデンティティーの決定 3. コミュニケーションツールの制作 4. ブランドをどうやって発信するか決定 5. 発信
消費者がブランドを認知するフロー 1. ブランドアイデンティティーを受信する 2. ブランドアイデンティティーに共感する 3. ブランドに対するイメージを形成する 4. ブランドにまつわる行動が変化する
  

「mt」誕生のきっかけは3人の一般女性

「mt」のブランディングがどうなされているかを考えるために、まず「mt」が誕生した背景を知る必要があります。

「mt」を作っているのは1923年に創立したカモ井加工紙株式会社という紙加工の会社。もともとハイトリ紙(ハエを取る紙)からスタートした会社ですが、1981年ころから工業用のマスキングテープを作るようになったそうです。工業用マスキングテープは建設現場や自動車メーカーなどで主に塗装をする際に使用するテープで、一度貼り付けた後、用が済んだら簡単に剥がせる必要があり、その絶妙な粘着力を実現させるためににハイトリ紙の技術が活かされていたんだとか。

この工業用マスキングテープが「mt」のルーツなのですが、当時は一般消費者向けではなく、ほとんど業者さんしかその存在を知らないような商品だったそうです。そんなテープが女子に人気のかわいいアイテムに進化したきっかけは、ある3人の女性。彼女たちの職業はデザイナーとアーティストとカフェオーナー、3人は大のマスキングテープマニアでした。ホームセンターなどに売られているマスキングテープを買ってきては、今で言うデコレーションのようなことに使っていました。

そんな彼女たちが「大好きなマスキングテープを作っているカモ井の工場を見てみたい」とカモ井にメールを送り、面白いこと好きだった当時の常務の後押しで工場見学が実現。その見学の場で上がった「色数をもっとたくさん作ってほしい」という彼女たちからの要望に応える形で、それまでの5色から新たに20色のラインナップを開発したのが「mt」の原点だそうです。販売を開始した2008年にはグッドデザイン賞を受賞するなど、その後さまざまな場面で注目を集め、今では多種多様なバリエーションが展開される大ヒット商品となりました!

企業のブランディングフロー

では、そんな背景を踏まえたうえで「mt」のブランディングを考えてみようと思います。

1. 「mt」のターゲット

まずはターゲット。メインターゲットはやはり女性ですよね。自分でちょこっとした何かを作るのが好きな人、雑貨や文房具が好きな人などがとくに惹かれるのではないかと思われます。「mt」の例では、生産者側がターゲットを絞って商品開発をはじめた訳ではなく、潜在的なターゲットとなる顧客との出会いによって、既存製品のリブランディングがスタートしました。

2. 「mt」のブランドアイデンティティーとは?

これも「mt」については、工場見学に訪れた女性3人の発想が大きく影響していたようです。社内用語として使っていた「mt」の呼び名をそのまま商品名にするアイディアや、消費者が店頭で手にすることを想定したかわいいパッケージングなど、自分たちが第一のユーザーであることを活かして約1年半をかけて創られたそうな。

3. どのようなコミュニケーションをとっているか?

それまで作っていた大量生産の工業用テープとは異なり「mt」は販路にもこだわりました。メーカーとしては工業用と同様スーパーやホームセンターなど、大量にさばけるところに卸したい。そんな気持ちをこらえ、少ロッドでの取引となるカフェや雑貨屋などに置くことに。この販路にもやはりキーパーソンである3人の意見を取り入れたそうです。

今では世界堂やトゥールズ(画材店)、Francfranc、Loft、東急ハンズなどをはじめ、小さな雑貨屋さんやカフェなど、あらゆる場所で販売されています。

また、店頭での販売に止まらず、文房具カフェで「mt」を使ったクラフト体験を開催したり、「mt」を用いた空間デザインの展示、世界のアーティストとのコラボ商品の発売など、国内にとどまらず世界各地で「mt」を取り上げたイベントが行われています。開発のきっかけとなった工場見学も年に1度開催されているとか。

4. どうやって発信しているか?

「mt」は広告宣伝をいっさい行っていないそう。
今でこそ雑誌やウェブマガジンのトピックスとして多く取り上げられていますが、消費者との最初の接点はやはり商品が置かれている店舗。口コミでその存在が広まり、ユーザー発信の「マスキングテープ本」なる本が出版されるなど、ファンたちの間でどんどん認知されていったそうです。

唯一と言っていい(?)情報発信の場である「mt」オフィシャルサイトでは、多数開催されるイベント情報だけでなく、イベントのレポートを発信したり、「mtのはじまり」を紹介するAboutページなどが掲載されていて、その歴史を知ることもできます。

消費者がブランドを認知するフロー

では、私たちはどのような場所で「mt」というブランドを認知しているのでしょうか?ワークショップであがったそれからデザインスタッフの体験にも触れながら考えていきたいと思います。

1. どこで「mt」を知ったか?

私自身が「mt」を知ったのは、写真の現像をするためにカメラ屋さんにいった時のこと。通り過ぎようとした棚にカラフルな何かが置かれているのがふと目に入り、かわいくてつい手に取ってしまいました。たくさん種類があってどれも数百円程度。自分の好きな模様を3種類ほど選んで、つい購入してしまったのを覚えています。

また、美大卒の社員である永渕は大学の生協で「mt」の存在を知ったそう。そして男性スタッフで唯一「mt」の存在を知っていた永井は「妻がメモを壁に貼るときに使っているのを見て知った」とのことでした。意識の高い美大の学生にはデザイン性の高いアイテムとして馴染みのあるものなのでしょうか。しかし、一般の人に対してはやはり女性向けのアイテムだということなのでしょうか。

2. はじめて「mt」を見たときどう感じたか?

「何かに貼ったらかわいいかも」というのが私が感じた第一印象。味気ない透明のセロハンテープではなく、このテープを使うだけでなんとなくおしゃれになるし、装飾に使うのも楽しそう。そんなイメージでした。

奥さんが使っているのを見た永井は「柄が可愛らしくて楽しげだな…」と感じたそう。ただ、「壁にテープを貼って大丈夫かな」とも思ったとのこと。普通のテープでは確かに心配ですが、そこがまさに「貼ってはがせる」という「mt」の強みの部分ですね。

3. どうやって「mt」を認知していったか?

今考えると、初めて見たときにまずそのバリエーションの多さで「かわいい、楽しい」と感じ、その割には価格が安かったのであまり迷わずに「買ってみよう」と購入に至っていました。「mt」という商品を知っていた訳ではなく、純粋に見た目と値段で購入しました。実際に使ってみると紙のような手触りや、すぐにはがせる手軽さからさらにお気に入りになっていき、もう少し違う模様もほしいな…という感じで少しずつ増えていきました。

ただ、あのかわいいテープが「mt」であるということを知ったのは今回のワークショップでテーマにあがってからのことでした。最近になってから発売されたものだということも意外で、GOODデザイン賞を受賞した、とかそういったことは想像もしませんでした。それはおそらく、小さい頃に好きだった文房具を集めるような感覚で、とても身近で慣れ親しんだものに感じたからかもしれません。

4. 「mt」を知ってからの行動は?

一度気になり始めると、雑貨屋やハンズなどさまざまな場所で目に止まるようになった「mt」。置いてある場所によって種類も様々で「これは本当に楽しい!」と、「mt」に感じる価値がどんどん高まっていきました。帰省した際に中学生の従姉妹にちょっとプレゼントしてみよう、など自分以外の人にも知らせたいと思うようになりました。口コミで広がっていったことも素直にうなずけます。

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まとめ

長くなりましたが、このような軌跡をたどって「mt」は世界においても(主に女子たちの間かもしれませんが)一目おかれる商品となりました。私自身何気なく持っていたアイテムですが、改めて考えてみると、その世界観が創られるまでにさまざまなポイントがあったように思います。

開発側であるカモ井の担当者が第一のファンである3人の女性の意見を徹底的に取り入れたことによって、商品開発、パッケージ、そして消費者との接点においてもまったくぶれることのないブランドイメージが創られました。消費者の意見に耳を傾け続けたカモ井の懐の深さも計り知れないものがありますが、消費者の目線で商品を創り上げることがいかに大切かを思い知らされたような気がします。

和紙をベースにしているという心地よい手触り、かわいくてオシャレでそれでいて子供っぽいわけではないバリエーション豊かなデザイン、小学生から30代女性にまで愛される手軽な価格設定、それらの微妙なバランスが多くの女性の感覚にマッチし、大それた商品ではないけれど、どこか懐かしく子供心をくすぐられるアイテムなのだと思います。

そして、どんな商品かということももちろん大切ですが、その商品とどこでどうやって出会うかということの重要性も「mt」のブランディングから強く感じるところです。ホームセンターのステンレスの棚にずらっと陳列されている風景と、おしゃれな雑貨屋さんで無垢材の家具の上にかわいく置かれているのとでは、商品に対する印象は大きく異なりますよね。

たとえ同じ商品でも、どこで出会うかによって、消費者にとっての価値は違ってくるもの。商品、パッケージ、そして販路へのこだわりが、結果として「mt」というブランドを形創り、それに共感する消費者に受け入れられ、広がっていったのではないでしょうか。

この記事を書いた人

佐山祐紀

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